再び海外子女教育を担当して 文部省海外子女教育室長 牛 尾 郁 夫 |
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22号巻頭言(1985年11月1日発行) | ||
昨年五月,まったく思いがけないことに,再び海外子女教育を担当することになりました。かつて昭和四十六年十月から四十八年九月まで外務省領事課で,引き続き四十九年三月まで文化庁国際文化課で,海外子女教育の担当官として通算二年半を過ごしましたが,その当時にくらべれば,帰国子女関係を含めて,海外子女教育のその後の急速な拡充ぶりはまことに驚きにたえないものがあります.とりわけ,海外子女教育において中心的な施策である教員派遣事業について,派遣教員の国内給与の財源となる資金を都道府県に交付するための在外教育施設派遣教員経費交付金制度が設けられ,派遣教員の身分取扱いが研修出張に統一されたことは,その後における在外教育施投派遣教員の安定的な確保を決定づけたものとして画期的な措置であったと思います。こうした改善措置と相俟って派遣教員も年々増員され,昭和六十年度では九九〇人に達しています.来年は教員派遣が始まってから二十五年目ということになりますが,派遣教員数が一千人の大台を超えるのはほぼ確実といっていいでしょう。まさに隔世の感があります。 ところで,こうして派遣教員が増員されるにつれて,当然のことながら帰国教員も増加しているわけですが,帰国教員が日頃の教育実践においてその貴重な海外体験をいかに活用していくかはこれからのわが国の教育を考えるとき大いに注目されるところです.その意味で,既に昭和五十年に帰国教員の全国組織が結成され,それ以降毎年,海外子女教育研究のための全国大会が開催されているということを知ったときは,さすがに先を見通した取り組みがなされていると感銘を覚えました。昨年の愛知大会には残念ながら出席できませんでしたが,今年の熊本大会では帰国された先生方の活躍ぶりを眼のあたりにし,さらに派遣教員の体験はないけれども帰国子女教育や国際理解教育に真剣に取り組んでおられる先生方の発表に接して,海外子女教育が単にそれだけにとどまらずさらに一層の拡がりを持って展開されるようになってきているということを実感しました。そしてこうした教育実践こそ近年特に強調されている教育の国際化の要請に応えるものであると確信した次第です。 帰国教員に期待される役割にはいろいろあると思いますが,要は貴重な海外体験を日常の教育実践に生かしていただきたいということです。帰国教員は日本とは著しく異なる環境の中で家族ともども三年間の生活を体験してきたというだけでなく,日本の教育が国際 |
的な関わり合いを持つ最前線ともいうべき在外教育施設での教育を実践してきたわけであり,こうした体験・実積は日常の教育活動を進めていくうえで貴重な資産であると思います。とりわけ,近年大きな課題となっている帰国子女の指導や国際理解教育への取り組みにおいて,帰国教員がその豊富な体験・実積を生かして中核的な役割を果たすことを大いに期待したいと思います. また帰国教員のこうした活動を通じて同僚教員の間に海外子女教育についての理解が深まり,意欲のあるすぐれた教員が派遣教員を志すようになって欲しいと思います。毎年多くの小・中学校教員が派遣教員を志して面接試験を受けに来ていますが,一般に海外子女教育についての知織が乏しいのには驚かざるを得ません.帰国教員から聞いてきたという場合でもせいぜい現象的なことを断片的に知っているという程度です。派遣教員の先学として帰国教員の適切な指導を期待したいところですい 派遣教員がその職務を安心して遂行するためには,国内とのつながりを常に密にしておくことも大切なことです.先輩である帰国教員と派遣教員との間に心の通い合った緊密な連絡があれば,異国にあって苦労の多い派遣教員にとって大きな支えになるものと思います.ここでも帰国教員の積極的な働きを望みたいと思います。 帰国教員のこうした役割は個人としてはもちろんですが,組織として果たされるとき一層大きな効果があると思います。その意味で,帰国教員を中心として組織された全国海外子女教育研究協議会の活動がいかに行われるか,また各地の支部がいかに活動するか,ということが決定的に重要なことになると思います.自主的な教育研究団体として組織の適切な整備を図り,帰国教員を中心に多くの同僚教員の参加を得て,一層充実した教育研究活動の進展に力を尽くされるよう期待したいと思います。 この九月,臨時教育審議会に国際化に関する委員会が発足し,教育の国際化についての調査審議が開始されました.海外子女・帰国子女教育もその中の重要な検討項目としてとり上げられるということです。教育の国際化のためには多面的な取り組みが必要ですが,帰国教員がその貴重な海外体験を生かしつつ,かつ,帰国教員だけの世界に閉じこもることなく積極的に毎日の教育実践に取り組んでいくことが大きな比重を占めることは疑うまでもないと思います。一層の研讃を期待する次第です. |