全海研の新たな役割

全海研 研修担当副会長 田代 雄康

東京都足立区立東島根中学校長)

58号巻頭言(1998年1月20日発行)

 2003年の学校週5日制完全実施にむけて先頃,教育課程審議会より改善の基本方針(中間まとめ)が公表された。

 少子化傾向に歯止めがかからず,年々学級減の現象がつづく中で現場では,この問題に精神面を含めて負担を感じている。同時に高齢化社会の進展と情報化社会の浸透から流行の波の早さが,学校現場に一部混乱を招いている実態もあるようだ。例として,ポケベルや携帯電話を学校生活の中に持ち込み,授業中にベルの音が教室内に響きわたる等は,高校から小・中にも及んでいる。保護者の立場としては,「神戸の中学生事件」等,社会の不安が解消されない限り自己防衛として所持の正当性を貫く,という。或る面では子どもたちの方が流行に敏感で,情報化の社会を先取りしているようにも感じられる。このような状況の下で「中高一貫教育」の必然性が唱えられているが現実的には生涯学習教育と絡んで,地域に根ざし,開かれた学校即ち,「小・中の連携」が今日的課題であり,急務のように思われる。

 こうした“内”なる課題と教育の「規制緩和」策の一環であろうか,東京都においては昨年度より教員の異動要項が改正された。従来の一校勤務10年,新採の6年の期間がそれぞれ8年,4年に短縮されて教員間の交流が早期に実施されるようになった。これらの事象を踏まえて,帰国教員の役割りを再認識したい。

 中間まとめでは,「総合的な学習の時間」(仮称)を小・中・高に共通して重視している。中でも「国際理解・外国語会話」等を横断的・総合的な学習として学校独自に課し,創意工夫が求められている。しかし,一般的には指導結果を数値で評価する教育に慣れている教員にとっては苦悩も多い。

 激しく変化する社会の,地域の特性や学校の規模等を考慮しながら,「公表」された内容を前向きに理解し,協議していく段階でその推進役を担って積極的にこの問題に拘わっていくことが,帰国教員の責務である。総合的な学習における「外国語会話」は英語と限定はされていない。それぞれの国の文化,細かな点では挨拶等を含めた独自の礼儀・作法をも学んでいく姿勢と,21世紀にむけて大きな課題である地球規模の環境間遠,人口問題等に関心をもたせる必要性がある。会員一人一人の「体験」を生かす時期がきた,と強く感じる。

 さて,地域によっては「帰国教員」であることを隠さざるを得ない時代もあったと聞く。しかし,時の流れは速い。現場における組織の一員である自覚と役割は,メンバーの入れ替りの速さによって自ずと明確になる。プラス志向と特性等を見出し,培う指導は子どもたちにのみ求めるものではないと思う。少子化と超高齢化社会到来の我々の責務は「生き方」指導が根底にあり,人との関わりを重視する。

 平和な人の教育,人権意識の函養,国民的自覚の函養,他文化,他民族等の理解,国際協力,世界重要課題の認識に基づく世界連帯意識の形成等の国際理解教育汲び国際教育の理念を推進する上で「全海研」の会員及び帰国教員に期待する声は大さい。類稀れな「幼・小・中・高」の先生方で組織される「全海研」,個性豊かで人間性溢れる会員各位の在外教育施設での貴重な経験を,“埋もれていく体験に終らせることなく21世紀に向けて新たに”築き上げていく経験”を結集して,一層の活性化を目ざし,共に励んでいきたい。