国際理解教育の実践を考える。 副会長 多 田 孝 志 |
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平成10年3月20日発行 | ||
ここ数年,国際理解教育を中心として,実践研究をしてきた。そうしたときいつも脳裏を離れなかったのは「実践とは何か」との根源的な聞い掛けであった。この問い掛けは現在も継続している。 「実践とは何か」その回答は容易にでないであろう。しかし,この問いに些かのヒントを与えてくれるように思えるのは,やはり現場の実践である。最近,心に残った実践を二例紹介したい。そのひとつは島根県仁多郡の高田小学校である。ここは冬には雪に埋もれる山奥の学校である。この学校で錦織校長先生以下8名の教職員が一体となり,国際理解教育を推進している。インターネットを活用し,世界各地の子どもたちと交信する学習はこの学校の特徴である。しかしこの学校の実践研究の神髄は実は,子どもたち一人ひとりを具体的に成長させる実践にある。十一月の末高田小を訪問した。同行は現場の実践に強い関心をもたれている国際基督教高校の渡部 淳,東大の佐藤 学の両氏であった。「夢スピーチ博」と名づけた学習の展開は次のようであった。体育館の舞台で一人一人が自分のスピーチの宣伝をする。次いで,教室,裏庭,階段のホールなど学校中に子どもたちが広がった。各所で子どもたちは,草鞋や横笛づくり,炭焼き,郷土の方言など思い思いのトピックについて,自分が調査したり実体験をしたことを語るのである。子どもたちは自信に溢れ,しかも楽しそうに語っていた。聞き手は質問を要請されており,話の合間には活発に交流がおこった。 もう一つは,東京都葛飾区立柴又小学校の実践である。
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国際理解教育の実践研究校として知られるこの学校では,二年間にわたり,世界の現実認識テーマに実践研究をすすめてきた。特に本年度は,総合的学習としての国際理解教育に取り組み,多様な実践を展開している。この学校の研究の質の高さは,先生方の協力体制により支えられている。授業で最も大切なのは構想段階であると考えるが,柴又小学校の先生方は一つの授業の構想について,同学年の先生を中心にさまざまな議論をし,そこで出た複数の実践プランを検証授業してきた。例えばゴミと地球環境についてコンピューターの活用ゴミに直接に触れる活動,ゴミの再利用の学習など,同じテーマを多様な手法で取り上げ比較検討してきた。こうした日々の子どもを見つめた実践研究により,「世界の現実について認識を深め,身近なところから行動する」学習が小学校段階から見事に展開されはじめた。 高田,柴又の両校の実践に共通しているのは,子どもたちの資質・能力・態度を世界にむかって具体的に伸長させていることである。実践とは,やはり子どもを成長させる地道な営みではなかろうか。そうした地道な営みに生きがいを感じる者こそ,教職にあることを誇れる。全海研は実践研究団体である。実践研究を通じての会員相互の啓発にこそ全海研の存在意義があると,私は考える。 去る六月本会の副会長であった。小川順子先生が逝去された。いつも全海研の未来や実践の在り方について語り合えた得難い先輩であった。「実践とはなにか。」について視野が広く,感性豊かだった小川先生だったらなんと答えてくれたろうか。いま先生のいないことを思うと胸中から寂寥感が去らない。
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