これからの国際社会に生きる人 ホンダ総合建物(株)代表取締役社長 小 杉 正 孝 |
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61号巻頭言(1999年1月31日発行) | ||
20世紀があと1年足らずで終わろうとしている。過ぎ去った百年を振り返るとその間に発達した科学や技術の目覚ましさに圧倒される。電気・電子,航空機,コンピュータ,核エネルギー,人工衛星,等はその一例である。40年前の私の少年時代には卓上計算機(電卓)さえ想像できなかったが,今やコンピュータや通信の発達により,世界中の国境を超えて個人ベースでもどんどん情報が飛び交うようになり,学校に通う我が家の息子たちがインターネットで米国大統領の不倫疑惑の報告書を茶の間で読める時代になった。少なくとも時間軸,コミュニケーション軸では世界は実に狭くなった。昨今の経済事情も全く同様でタイがくしゃみをすればアジア全体が風邪を引き,世界中にその余波が津波のように押し寄せることになる。世はまさにボーダーレスの時代である。 しかし,このように,科学や技術の進歩には目覚ましいものがあるが,それらを使う人間の進歩の方はどうだろうか。日本の過去一年を見ても政治の腐敗,汚職による官民の癒着,脱税や不正,金融破綻や倒産が新聞紙上を賑わし,目を被うばかりである。最近米国からの教育関係訪日団と会食する機会があったが,彼らはこの時代の大統領の不倫不適切行為がどれほど教育関係者を困らせ,子供たちに害を及ぼしたか計り知れないかを異国同音に語り,嘆いていた。科学は長足の進歩を遂げたが人間や心を変えることは出来ない。 永年外国に往き来し,多くの外国の人たちと仕事をしてきた私は,「これからの国際化時代を生き抜くにはなにが必要か?」とよく尋ねられた。「ハード面では英語とコンピュータを駆使できるように勉強すべき」と答えてきたが,ソフト面の人間の本質は別で,より重要である。 国際人に要求される要素としては大きく2つに分けられると思う。1つ目は良い国際人である前に良き日本人であること。そして2つ目は国際社会の中で生きていく時に不可欠な取り組みの姿勢や素養である。それらの重要ポイントをここに挙げてみることにする。 |
(T)「良き国際人である前に良き日本人であること」 (1)物事の善悪をわきまえ敢然と行動する事(昨今 の政治家や官・民の腐敗をみよ) (2)「つて」「こね」に頼らず己の道は自分で汗して切り開く事。依頼心をもたぬ事。 (3)相手の身になり,視線を合わせ行動すること。社会的弱者・子孫・環境を守る事。 (4)やりたいことよりやらねばならないことを,権利より義務を優先し,全うする事。 (5)恥ずかしがらず,臆せず,逃げず,正面からぶつかり失敗をおそれず挑戦する事。 (6)趣味であれ学科であれ他人に負けない得意なものを何か一つ持ち誇りとする事。 (7)「心が通い,血が通う」人間になるよう努力する事。 (U)国際社会の中で生きていく上でより一層強く求められるもの (1)しっかりした日本語力と日本に関する知識(歴史,文化,伝統,宗教,外国との違い等) 日本人としてのアイデンテティ。 (2)語学力(英語プラスもう一ヶ国語)。積極的に学び,使おうという姿勢。 (3)コミュニケーション能力。オープンマインド。意志疎通しようとする姿勢。 (4)応用力。機転。いかなる環境にも適応できるサバイバル力。踏まれても立ち直る雑草のようなタフネスさ。転んでもただでは起きぬしたたかさ。 (5)思考の柔軟性。頭や気持ちの切替えの素早さ。 (6)忍耐力。すぐにキレたりしない理性。 (7)イエス・ノーを勇気を持ってキッパリ言える力。自分に勝てる力。 等々である。これらはどれも今後の国際社会を担う子供たちに必要不可欠な事柄だが,これをどのようにして子供たちに身につけさせていくかは,親や,教育関係者,それに学窓を巣立った国際人の卵を預かり,国際社会でビジネスを展開していく我々企業人の大きな課題である。言葉だけでなく,行動をもって課題を果敢に実現していこうではないか。 |