研究成果の発信について 文部省・教育助成局海外子女教育課長 加 藤 重 治 |
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64号巻頭言(2000年1月20日発行) | ||
7月に,それまでの科学技術行政の世界から教育行政の世界に足を踏み入れ,はや5ヶ月が過ぎた。日本人学校など海外で頑張る教員の皆さんやそこで学ぶ子供たちとの出会いの中から,人間の素晴らしさ,教育という仕事の崇高さに感動しながら,過ごしてきている。ところで,就任以来気になっていることがある。それは,教育実践に関する現場での様々な研究の成果の発信についてである。どのように発信すれば,より広く教育現場で活用されるようになり,また,社会の注目,正当な評価を得られるのであろうか。 11月にサンパウロで中南米地区日本人学校校長研究協議会が開催された。そこでは,同地域の各校が,地域的な特性等を存分に活かしながら,学校全体で総合的な学習の時間に向けて先駆的に取り組んでいる様子が発表されたが,その場での情報交換・共有だけで終わらせてしまうには勿体無いような示唆に富むものであった。他の地域の日本人学校はもとより,総合的な学習の時間をどのように構築するか頭を悩ませている国内の学校にも発信するべきではないかと感じた。 自然科学や工学の世界の研究では,研究成果を論文にまとめ,論文誌に投稿する。審査され,載せる価値ありと判断された論文だけが掲載される。そして,研究者の目から見て意味のある論文は他の研究者に引用される。引用される回数は論文の質を表すひとつのバロメーターであると言われている。一種の評価が行われるわけである。あるいは,他の研究者から批評が寄せられることもある。そのような中から,さらなる真理が探求されていく。ともかく,ある研究者の成果の上に他の研究が行われ,そのような積み重ねで科学が発展して行く。研究成果を発信することは,科学の発展に不可欠である。 同じことを教育実践の研究に期待するのは難しいと感じる。ひとつには,教育実践の研究を行う教員にとっては,メインの仕事は教育の実践であって,研究とその成果とりまとめだけに
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全精力を注ぎ込むわけには行かない。また,新しい教育実践を試みても,その成果はすぐには見えないということもあろう。だからと言って,研究成果の発信について従来通りの取り組み方でよいとは思わない。 |