国際理解教育の目標概念について     
1 3つの観点とグローバル意識について

      

【教材の分析軸】
 学校教育が社会とつながるという方向性(「社会に開かれた教育課程」)を生かすためにも、資質・能力と学びに向かう姿勢を授業や日常の小さな教育活動でも重視する必要があります。そのためにも、教材開発において、3つの観点がバランスよく指導されなくてはなりません。この3つの観点を新しい学習指導要領では、「何を理解しているか(生きて働く「知識」の習得)」「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成)」「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」という表現の仕方(表1)をしており、社会との連続性が意識されています。
この3つの視点を座標軸として図式的に考察すると、図1のようにとらえられます。ある素材を3観点(3方向)から分析し指導方法を考えていくということです。これを「教材化の分析軸」と呼んでみます。国際理解教育を進めるための素材を手に入れたならば、その素材をこの3観点からどのように教材化していくかという作業が必要になります。一つの観点だけで素材を料理することはできません。3つの観点の目標を明確にして初めて、児童生徒に授業として提供できるのです。
更にこの3観点に加えるのが、グローバル意識です。かつての国際理解教育は、異文化理解や国と国の関わりが主な対象でした。しかし、今や多国籍企業が経済を動かし、環境問題はもはや地球を一つの生命維持体とし、そしてITの長足の発展は国境を越えた情報のやり取りを可能としました。国を超えて自由に世界を動き回るグローバル人材だけでなく、私たちの日常生活がグローバルなネットワークや環境に組み込まれているのです。空間的なつながりだけでなく、未来への責任という形での持続可能性という概念は、グローバル意識と密接につながります。世界を認識する時に、私たちは世界をより高い場所から俯瞰することです。世界を一つの球体の中にエコロジカル(共時的)でかつ継時的なまとまりとしてとらえる意識を、グローバル意識と呼んでいるのです。国際理解教育の素材は、3観点から分析されることで教材となり、そこにグローバル意識という推進力を得て大きく動き出します(図2)。3つの観点に着目することで授業は成立しますが、教室という小さな空間での授業を世界へと覚醒させるために、グローバル意識という概念を設定しました。しかし、同時にグローバル意識という考え方は、自文化中心主義や政治的な敵対関係を生み出すロジックからは、「現実離れしている実体のない概念」だとして批判を受けることがあります。グローバル意識は、非常に政治的な表明として受け取られる場合もあります。私たちは、そうした現状を踏まえながらも、グローバル意識を学ぶことが、未来を担う子どもたちにとって非常に重要であると主張します。
2 3つの観点の対称性について

3つの観点に配置される概念や能力は、非常に豊かな内容を持っています。それぞれの項目ごとに一冊の本が書けるでしょう。
私たち教師が教材研究をしていると、一つの目標項目の中にすでに3観点が包含されていると思える時があります。しかし、あまりに学究的に目標概念を追求することは、教室という実践の場にはあまりふさわしくありません。
この3観点を構成する16の目標の内容は、教室の実践ではあるレベルで追及は中止すべきです。むしろ、この3観点を固定的にとらえるのではなく、あくまでも観点として柔軟にとらえた方がいいのです。観点は、知識や能力の内的な構造を分析したり、知識や能力の働きや機能を説明したりするときの目安です。これを図式的に表現すると、教材の3つの軸を図3のように90度ずつ回転させても、対称性(同じ意味を持つということ)を持つと言えます。国際理解教育の16の項目が、3観点のまま3つの視点の座標軸に置かれる場合もあれば、3つの軸を回転させて、それぞれの項目を異なる観点としても見ることが可能です。あまりに分析的な定義にこだわると、教室での瞬間瞬間の学びの目的を見失ってしまいます。たとえば、「共生」という知識の概念は、「共生」的な思考力の一つにもなるし、「共生」的な態度でもおかしくない。批判的思考力を身に着ける途上で、偏見や差別といった知識を獲得する必要があるし、人権意識のような生き方に関わる思考を扱うこともあります。それでは、あいまいではないかという指摘があるかもしれません。しかし、学校の教育活動で今求められているのは、子どもたちの生きて働く知識とそれを使いこなす能力と態度をいかに育てるかです。こうした資質能力は、児童生徒が問題を解決していく中で身につけていきます。私たちの国際理解教育の17の目標は、教室で繰り広げられる課題解決活動と結びついたときに、はじめて適切な目標として設定されるのです。子どもたちが問題と向き合う活動の中で、はじめて17の概念や方法、態度に意味が与えられるのです。研究者が与えてくれた概念という道具を、私たち教師が自分なりに「使いこなす」作業と言えます。
3 3観点の目標項目の等価性
2の対称性と同様に、私たちがあげた3観点16項目は授業づくりの要素として機能します。この目標のどれを選択するか、どのように結び付けるか、さらには新たな目標概念を創造するかは、授業づくりの目標(課題)によって変わります。この16の項目は、あくまでも要素(エレメント)として存在しているだけで、それらを組み合わせて命を与えるのは教師の仕事です。目の前にいる児童生徒、生活する地域などを基盤として、授業づくりを構成していっていただければと思います。
よって、この16の項目の配置は、3つの観点に均等であれば自由にどれをとっても国際理解教育の目標は等しく達成されるので、目標の「等価性」と言えると思います。

このことは、北海道ブロック大会で提示されました北海道ブロックの第12次研究における「めざす授業の構造図」に端的に示されています。授業という「問題」に対峙してこそ、生きた目標概念になっていくものと信じています。
この16のエレメントの中でどれを重点化して構造化するかが実践者にとって大切な課題です。実は、重点化することで、ひとつのエレメントが新たに別のエレメントにつながり、目標が平面的につながり広げられていきます。この一つのエレメントが新たなエレメントとつながり平面化するには、一つの学習の深まりと広がりと継続という3つの深化が求められます。学習が掘り下げられ」ることで、教師はいつも新たな事態に出会いますが、その出会いによってより学習は複雑さを増し、子どもたちの学びは多様化していきます。一つの答が与えられるのではなく、あくなき探求の旅へと子どもたちをいざなうの
です。