海外の英語の授業ここが難しい

 

◆ アンケート結果から見る指導上の課題

 このガイドブックのもとになった資料は、平成9年に引き続き全海研海外子女・帰国子女教育事業部が実施したアンケート「在外施設における学力の保障と国際性の涵養についての継続調査」〜英語のガイドブック作成に関わるアンケート〜にもとづいています。このアンケートで在外教育施設、特に日本人学校で英語教育を行う際の困難点を挙げてもらいました。

(一口に英語といっても様々な学習形態があります。ここでは便宜上次のように区分させていただきます。英語に関わる学習全般を英語教育、中学校での教科としての英語学習を英語科、小学校の総合的な学習の中で行われている英語学習を英語活動、英語活動を超えて特に会話に焦点を当てて行われている英語の学習を英会話として区別しています。)

 

〈教材教具について〉

 アンケート結果から考えると海外での英語教育に関しては困難だと感じる点は非常に少ないことが分かります。日本よりも環境や教材に恵まれた地域もあり、この点他教科と大きく異なる所だと思われます。ただ現在でも教材教具、たとえばカセットテープの現地での入手が困難である、政府の規制が厳しく日本からの教材の取り寄せが難しい等の報告があることは確かです。

 

〈新しい課題〉

 しかしアンケート結果からは、むしろ小学校の英語活動、イマージョン教育や現地校・インターナショナルスクールとの交流に代表される学校独自の取り組みなど新しい取り組みに対して苦労されていることが分かります。平成9年に実施したアンケート調査では、中学校の英語において教材教具の不足や入手の困難だけがあげられていたことと比較しても、英語教育への時代の要請と期待の大きさを痛感するところです。

 

〈運営面での苦労〉

 またこのグラフでは反映されませんでしたが、具体的な質問事項の回答を拾い上げてみると教材教具などのソフト面では日本よりも恵まれている海外の学校ですが、時間割やクラス編成などのハード面では苦労しているという報告が多く寄せられました。たとえば習熟度の極端に異なる学習集団を制約された学校事情の中でいかに効果的に学習させる環境を作るかという問題です。このような結果から次のように問題点をまとめてみました。

 

◆海外から報告された英語教育指導上の課題と具体的な報告

1 授業づくりにおける取り組みにおいて

■英語能力差への対応 

授業での取り組み(授業づくり)における全般的な課題に対しては「『海外で生活するのだから』と早期から英語(英会話)を習っている児童生徒、海外を転々と住んできて外国語に慣れている児童生徒、まったく予備知識の無い児童生徒が混在していること」(ハノイ日本人学校)に代表されるように様々な習熟度に渡る生徒を同時に教えていかなければならないことが大きな問題点になっているようです。

 

★海外在住歴が長い子どもは英語の能力が高い。(ブラッセル日本人学校では小3から英会話の授業が設けられている。)しかし、例えば、中学1年生で初めて海外にきた子どもは、アルファベットから学ばなければならないため、英語の習熟度にかなりの違いが出てくる。英語の習熟度が高い子どもには、復習、再確認という意識を持たせているが、試行錯誤の状態である。(ブラッセル日本人学校)

 

■教材教具の不足 

 

また、「物資がいろいろ不足しているので、教材の確保が困難なこと。」(ヤンゴン日本人学校)などまだソフト面で苦労なさっている学校も少なくないようです。この問題に関しては英語科だけではなく学校全体の組織や運営に関わる部分もあると思われます。各校知恵を出し合いながら日々の教育活動を進めているのが現状のようです。

 

学校としての取り組みにおいて

■英会話授業・カリキュラム作成・現地教員との連携・意志の疎通、調整

 学校としての取り組み(組織運営)における課題ですが、特に英会話授業に関しては日本人学校は草分け的な存在だと思われます。独自のカリキュラムを作成し成果を上げている学校もありますが、現状を見てみると「現地採用職員との意志疎通が困難であり、カリキュラム作成のうえで問題がある。」(サン・ホセ日本人学校)のように現地採用の職員に運営を任せている場合が多く、年間カリキュラムの運営や講師との打ち合わせ等に苦労している場合が多いのが実情です。講師が変わるごとに指導内容が変わったり、指導力に問題のある講師もいるようです。また中学校の英語科との連携が難しく、小学校からの指導体制の編成が望まれています。

 

 この問題に関しては学校独自でカリキュラムを編成したり、英検やラジオ英会話を参考に到達目標を設定している学校もあります。ただ、どうしても講師に任せることができないため英語科の教員が孤軍奮闘で頑張っていたり、小学部では担当者が英語を自ら学びながら努力しているところが多いようです。しかし最近では小学校の英語活動も盛んになってきて参考となる資料が大変多くなってきました。ますますそういう研究が増えることが望まれます。

 

■海外の特性を生かした英語活動

 また、海外の特性を活かした英語活動については、「英語の授業、米国社会の授業を中心に進めているが、生活科及び夢育タイム(総合的な学習)や校外学習(移動教室)、ART(図工・美術)の授業等において、現地の人々と英語によるコミュニケーションを図らなければならない場面を多く設定している。現地校との交流では、まったく英語に頼らざるをえないので、子ども達は必死で英語の習得を図ろうとしている。」(ニューヨーク日本人学校グリニッヂ校)のように発展的な活動を進めているところ。「英語教員の資質について本校では、6名の英語科教員(5名はアメリカ人)が、それぞれ州の教員免許を所有し、または取得中の者で英語指導に当たっているが、個々の指導力等に格差が見られ、そのため研修の充実を図っているが、アメリカ人教師への指導は時間的な制約もあり、なかなか困難である。また、指導者を捜すことが難しく、現在校長が指導に当たっている。」(ニューヨーク日本人学校グリニッヂ校)というように指導者との連携に対する問題や最近では外国人保護者との連絡などに対する悩みも多いようです。

 

■イマージョン教育

 イマージョン教育については各校の取り組みの実践例が多く出されているので参考にされるとよいと思います。

 

英語科教員に求められるもの 

英語科教員に求められるものとしては校内的には授業から英語活動のコーディネイト、講師との連携、家庭との連絡などが考えられます。これらの課題については普段の授業作りからカリキュラムの作成や各校の取り組みの蓄積、職員の研修など地道な努力が必要となってきます。英語教育を超えた面も多くありますが、英語科や英語活動に携わる教員に負担がかかることがさけられないのが実情です。また校外的には交流授業の渉外から英検の監督まで英語の運用能力を問われることも多くあります。

 ただ、「英語活動ここが楽しい」の項で触れましたが、海外で英語を学習することの楽しさを考えるとこのような問題点を乗り越えることができそうです。また、これらの問題点を乗り越えることによって自分自身が研鑽され、とても貴重な経験を得ることになります。ぜひとも、派遣される学校で全力で教育活動に当たってください。

 次章からは各課題について自分ならどう取り組むかというシミュレーションです。今現場で取り上げられている課題が多く載せられています。ぜひ現場に行って自分だったらこうするというつもりで読み進めてみてください。きっと役に立つと思います。

 

みなさんの活躍をお祈りします。 Good Luck!