下手をすれば、ちょっと新しいブームにのって国際理解といった傾向もなきにしもあらず。
もう一度、「国際理解教育とは」、「国際性とは」と考えてみる必要があります。
そして、この問いに答える作業は、私たちの実践からかけ離れた理論を作り上げることではなく、毎日の教育活動のより所となる実践的な理論を、子どもと教師に最もフィットする言葉と表現であらわす作業でなければなりません。
抽象的な答えをさがすのではなく、実践の中からその答えを求める過程(思考・実践・反省)が重要であると考えます。
たくさんの国際理解教育の目標は、重複したり、微妙にずれていたり、奇妙な絡まりを示しています。その理由は、国際理解教育と呼ばれる教育の中に、「関わる領域に対して名づけられた教育」があったり、国際性をその「目標から考えた教育」もあります。さらには「国際性が問われる行動についての学習」などもあります。これらが交錯して「ひとつの国際理解教育」として名づけられているからです。
[どんな目標・領域・行動をめざしているのか]
国際理解教育がかかわる領域・目標・行動から国際理解教育を整理してみましょう。
目標とは、どういった人間像・世界像・関わりモデルを国際理解教育が目めざすかということです。相互理解といった抽象的な目標から、人権意識の涵養、世界平和、貧困の撲滅など具体的な目標までさまざまです。
対象は、国際理解教育がどういった人たちを対象としているか、を考えます。帰国子女なら帰国子女教育、国内の小中学生なら一般的に国際理解教育、海外子女ならば現地理解教育とよばれるなど、さまざまです。
行動とは、問題解決のための技能や意思決定の方法など、どういった思考力・技能・態度が必要かが行動の内容です。
この目標・領域・行動という3つの要素は、互いに絡まりあう、どれもが重要な要素です。しかし、この目標・領域・行動を混ぜ合わせた国際理解教育の把握は、国際理解教育をとらえなおすには、あまりに網羅的で、「なんでもかんでも国際理解」といった感じで、国際理解教育の将来的で基本的な枠組みが見えてきません。
態度・技能・知識という観点から考えてみてはどうだろうか。
この視点は目新しいものではありません。いわゆる関心・意欲・態度、思考・判断、技能・表現、知識・理解という古くからの教育の4つの側面を簡潔に表現したものです。私達の通知表をはじめとする子どもの評価において最もよく用いられる考え方です。
国際理解教育では、特に関心・意欲・態度と思考・判断をひとつのセットとしてとらえた方が、シンプルに目標を表現できるように思います。なぜなら、関心や意欲の向かいかたを決定するのが、国際的な思考、国際的な判断の基準だからです。
上の図のように、国際性を支える態度、技能、そして知識という三つの側面から国際理解教育の目標をいっしょに考えてみませんか。
国際理解教育の目標とは?
[態度の目標とは]
態度の目標とは、国際性のなかでも行動や参加を支える基本的な生き方や姿勢・スタンスを指します。どのように物事を思考・判断して、どのように行動するかというときに、思考・判断の枠組みになるものです。多くは実際の行動場面で活用され、しかも複数の価値観や態度の交錯や葛藤によって悩むのです。
態度の7つの目標は、自尊心・誇りという場に、個人と集団というベクトルと自己と他者というベクトルが互いにクロスする形で表現され、また意思と感情と自然という3つのベクトルがもうひとつの態度目標を図式的に表現します。
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自尊心(個人)
欧米においては、人としての生き方の原点に置かれています。日本では自尊心と言いますが、海外ではSelf-respect
Self-esteemなどと呼ばれます。「かけがえのない大切な私」「自分への肯定的な感情をもつこと」が基本にあります。他者への尊敬の念や基本的な人権の尊重も、すべては個人としての[私]のかけがえのなさ・大切さを認識することから始まるという姿勢です。
A
他者の受容・尊重(個人)
他者の自尊心を尊重するという逆の立場も、個人にとっては必要な態度である。
B
誇り(集団)
自分自身への誇りではなく、自分が所属する家庭・団体・地域・国家に対する誇りを指します。家族愛、愛校心、郷土愛、愛国心などがあたります。これらは十分な注意も必要な価値観です。権威的で排他的な集団を形成する危険性も多分に孕んでいるからです。
C
異文化の受容(集団)
自分たちの集団に対する誇りは、同様に他の集団への受容・尊重を促します。他人、特に自分自身の持つ国家的、文化的及び家庭的背景の異なる人々の受容を始め、そうした異文化や異なる背景への受容・理解・尊重といった姿勢は自文化への誇りなくしてはできません。また、自分たちの誇りは、異文化の受容といった態度を失えば、エスノセントリックな感情に転落してしまいます。
D
平和と正義へのコミットメント(意思決定)
平和的で民主的な行動への参画の態度は、国際性の最も重要な目標です。平和と正義を追求する強い意志決定の態度でもあります。個人としての意思を表明すること、あるいは集団としての意思を表明したり、行動に移すことは重要で最終的な目標と考えます。
E
連帯感・共感(感情)
同じ人間としての連帯感あるいは共感的な一体感は、強い意志表明と同時に欠かすことはできません。異なる背景や文化、社会状況にあっても、常に同じ地球人としての連帯感を持ちつつ、共感することで共生の意識を高めていかねばなりません。
F
自然・生命に対する畏敬・環境保護(自然)
環境への配慮は、我々の生命や我々を包む自然への素朴な畏敬の念から生まれてくるものです。文明と対立するのではなく、その基盤としての自然・生命があります。
国内での取り組みでは態度目標が観念的で、お題目化しているような気がします。社会参加への意識がうすく、社会参加するための組織やしくみも十分に整備されていません。それは今後の総合学習や「開かれた学校」に期待したいものです。
[技能の目標とは]
身につけた知識や態度を実際に行動に移すときに、必要とされる実践的な能力をさします。これらは実践や活動の中で、体験的に獲得していく能力と言えます。
@問題解決の技能
計画性・プロセスの重視・協力・組織管理・リーダーシップ・参加の手法など課題を見つけ、解決していくための技能です。[生きる力]の根幹の技能です。
A情報活用能力
物事を批判的に思考し、常に合理的・実証的・理論的に把握する能力です。ステレオタイプ・偏見・プロパガンダに左右されずに、正しく判断できることです。 他者や異文化の受容において、大切な技能です。
B 想像力
見えない遠くのものへの想像力と感受性です。これははたして技能なのでしょうか。争いが起きている時、その場にいあわせない我々が、少ない情報からその場の悲惨さを想像する力は、やはり鍛え上げられるもののような気がします。
C
コミュニケーション能力
母語以外に、さらに一カ国以上の外国語を操れる人が求められています。できれば、国際共通言語として英語が最低条件となるでしょう。また、表現力はここでは、コミュニケーション能力とはとらえていません。それは自尊心や他者の受容といった態度の目標と交錯するからです。
[知識の目標とは]
国際理解教育の難しさは、国際性といった資質・能力が「現前しないもの」にかかわるものであるからです。そもそも直接性をもたないものとの関わりを扱う態度や価値に関する学びは、不明瞭で曖昧なものとならざるを得ません。そのために、国際性は必ず自文化理解や地域理解がよりどころとされるのですが、実は「非現前性」への対峙こそが究極のテーマと考えます。ここにはない、あるいは見えないものへの理解として「何ものかへの知識」として次のようなものがあります。
@「遠くにあるもの」(「遠くで生起していること」「遠くで消えていくもの」「遠くの人々」)を知ること。
⇒外国人との交流・異文化理解など
A「遠くにあるもの」との見えない関係・つながりを知ること。
⇒相互依存のかかわり・外国へ与えている影響・外国からもたらされているもの・環境問題・富の不平等など
B「現前しないもの」や「それとのかかわり」に内在する社会的な理念・共通の理想を知ること。
⇒平等・人権・平和・持続可能な開発・公正さ・歴史など,
これらの3つの側面は、目標として独立することもあれば、多様に交差することもあります。大切なのは、バランス感覚です。こうした多彩な目標の上に、国際教育が営まれるのですから。