実践事例 中学校 | ||||||||||||
「共生のための異文化理解の学習プログラム」 | ||||||||||||
学習活動名 「文化と文明どう違う?電気があると便利だけれど」 | ||||||||||||
1,ねらい ○人との関わりを通して、自分とは異なったものの見方があることに気づかせる。 ○外国人講師との交流活動を通して、その母国での暮らしぶりを聞いて異文化に気づかせると共に、日本とその母国の電気事情の違いから、自分達の生活の便利さや不便さを考える。 ○文化や文明の違いを知り、便利なことと幸せなこととは何なのかについて考える。 ○文化の等価性に気づく。 |
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2,作成の意図
わが国は高度経済成長を成しとげて、名実共に先進国の仲間入りをしてきた。その結果、各家庭では金銭的な収入の向上や生活意識が変わると共に、電気製品がいきわたり家庭生活も大変便利になってきた。しかし、その反面に失ったものや忘れ去ったものがあるのは事実である。 近年は国際化が進み、自分とは異なる価値観などを持つ人と接する機会がふえてきており、わが国においても多くの外国人が訪日し、居住するようになってきた。そして、その子女が小・中学校へも就学をしている。ところが、街で多くの外国人を見かける機会が増えては来たものの、一部の地区を除き、子ども達が実際に関わりを持つことはさほど多くないのが現状である。また、保護者の転勤などで海外に居住するケ−スや海外旅行やホ−ムステイなど、海外に出国する児童・生徒の数も多くなっている。渡航先は、欧米の先進諸国から南北問題でゆれる発展途上国に至まで様々である。 異文化をもった人と人との関わりを大切にしながら、他者と共に生きる社会をめざしていくことは、大きな教育課題でる。さらに、異文化理解やコミュニケ−ション能力は、21世紀の国際社会に生きていくために必要な資質・能力でもある。 そこで、学校現場に外国人を講師として招き、外国人との交流授業を体験させ、異文化理解やコミュニケ−ション能力を少しでも育成すると共に、その人の母国の文化や暮らしを聞きながら、日本の電気のある生活とその人の国の生活を比較し、便利なことと幸せなことについて子ども達に考えさせてみたいと考えた。必ずしも電気のある生活が幸せとは限らないことや、電気のある生活であるがゆえに失ったものを見つけだし、文化と文明の違いは何なのかを考えさせることによって、文化の等価性に気づかせたい。 3.学習の展開、およびその留意点 子ども達に、「自分達の生活のに欠かせないもの」を自由に挙げさせると、ゲ−ム機器や電話や車など、さまざまなものを挙げてくるが、よく考えてみると電気とものすごく密接な関係のあるものが多いことがはっきりと分かる。つまり今の私達の生活には、電気のある生活がごく当たり前であり、また、電気は必要不可欠なものになっていることに気づくのである。「電気はどこで、どのようにしてつくられるのか?」「電車はどうなっているのだろうか?」「ジャンボジェット機の電気はどうなっているのだろうか?」「世界の電気には、違いがあるのだろうか?」など、子ども達の興味のままに調べてさせてみるのは、学校の図書館を利用したり、インタ−ネットを利用したり、あるいは専門家に尋ねてみるのも良い。そして、それら調べた内容をまとめ発表する場を設ける。 次の段階として「電気のおかげて得たものと、失ったもの」について話し合いをさせる。それには、自分で考える他に祖父母や親など、他者からの聞き取り調査も必要になってくるのであるが、つまり、他者との関わりをもつことは多文化共生の社会にとって大切なことを間接的に気づかせたいのである。自分で調べたことを発表して他の子ども達が調べたことも聞きながら、話し合い活動を持ちたい。また、外国人を講師として招き、日本の電気のある生活とそれぞれの母国の生活などを比較しながら話し合う機会をも設ける。ここで、外国人講師は一人だけでなく複数名招くことを心がける。そして、国籍もアジアなどの日本に近い国から遠い国まで、一つの国に偏ったりすることなく、また、先進国ばかりでなく発展途上国も含めるようにしなければならない。さらに、外国人ならば誰でも良いというのではない。子ども達と日本語である程度会話ができる人が望まれ、身元もしっかりとした人(不法滞在者などでないこと)でなければならない。そして、外国人講師などとの話し合いをもとにして意見交換をする。電気があって便利な生活や、反対に電気がなくても何の不自由もなく生活していることなど、便利なことと幸せなことの違いは何なのか、文化や文明の違いは何なのかについてまで話し合いを深めていきたい。ここで重要なのは、電化された先進国の文化はよくて、途上国の文化は貧しくよくないと言う概念を壊すことである。途上国も先進国と同じように言語を持ち、生活習慣が確立され、歴史的に成熟した社会を持っていることを改めて意識させたい。 最後に、自分達の思いをまとめ、外国人講師の方にお礼の手紙を書いたり、あるいは再度招いて発表会に参加してもらったりする。子ども達が気にもせずに過ごしていた日々の生活の中で、実は何か大切なものを見失っていたり、何か自分達でもできるほんの少しの手助けに気がつかなかったりなどに気づかせて、他者との関わりを大切にすることや、異文化に気がつくと共に共感性を持ち、多文化共生の社会をめざした国際理解教育の一助にしたいと考えている。 |
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4,学習計画
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5,学習を振り返って(金子吾朗) (1)課題に取り組むにあたって。 子ども達の身の回りの生活の中より、最も身近な「電気」を選んだことによって、実生活に結びついたいろいろなことを調べるきっかけとして、大変興味ある学習がもてました。調べ方は、図書館、電気店、航空会社、インターネット、休日を利用しての博物館見学など、いろいろな手段や場所など、熱心に取り組むことができました。発表の方法は、グループごとのポスターセッション形式が主でしたが、今後は、ビデオやコンピュータを使うなどの方法も検討していきたいと思います。 (2)外国人講師を直接招いたことについて。 普段の授業とは違って、地域に在住する外国人を講師に招いたことは、子ども達にとってかなり強いインパクトがありました。講師の母国と日本とを比較しながら、お互いの国の違いや良さに気づき、直接経験をふまえた講師から異文化を知ることができました。また、身近な地域に在住する講師を招いたことで、直接交流の良い体験がもてたと思いますし、今後の接点も期待できます。子ども達が通学の途中や買い物などで、出会うことがあるかも知れません。再度招く時にも、連絡が取れやすいということがあります。足元からの「共生」に向けた出発となることを期待します。 外国人を講師に招くにあたって、その人が日本語をどの程度話せるかなどがポイントになります。まだ日本に来て間もない人、日本に来て2〜3年ぐらい経過している人、それ以上長く日本に在住している人。また、日本語がまったく話せずに通訳を必要とする人、少し日本語を話せる人、日本語がある程度話せる人など様々です。そしてさらに、学校教育の場に相応しい人材を考慮しなければなりません。例えば、外国人登録証で本人を確認するのも一つの方法でしょうし、教育の場ということをわきまえて交流授業に望んでもらうことも大切です。 (3)子ども達のその後に期待して。 交流授業後には、電気を通して便利になったことや、便利になった反面に何か失ったものはないかを考えさせました。その結果、いろいろな国の文化や幸せについて、子ども達の思いや感想の中からも、物が豊かになった反面、心(精神)の豊かさが失われていったことに気がついた子がいました。 最近の子ども達は、少子化、核家族化、遊びの環境の変化などで、人と人がかかわる機会が少なくなっています。しかし、社会生活の中では人間関係は切り離すことはできません。お互い立場を認めたり、それぞれの違いを認めたり、国や文化は違っていても、人権を尊重することの大切さなどはしっかりと押さえたいことです。 自分をしっかりと見つめることにより他者とのかかわりを大切にしたり、また、他者とのかかわりから自分を見つめ直すことができます。このように、自分から他者へ、他者から自分へと、人と人とのかかわりや周囲とのかかわりを通して、共通性、相違性、多様性への気づきが育ちます。このことが共生への近道ではないかと考えます。
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