実践事例 小学校 | ||||||||||||
「総合的な学習でのコミュニケーション能力の育成」 | ||||||||||||
学習活動名 「コーンプロジェクト」 | ||||||||||||
1,ねらい ○外国の方と交流し、他の地域の暮らしを知り、積極的にかかわろうとする。 ○コーンをきっかけに、異文化を体感する。 ○自分で調べたこと、考えたことを積極的に表現する。 ○交流をきっかけに、人の優しさに触れ、自分もそうなろうとする。 |
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2,作成の意図 インターネットの普及によって学級や学校、国の枠を越えた共同学習が可能になった。しかしなが ら、これまでの共同学習の形態を分類すると、企業や団体がキース テーションとなりプロジェクト を進める「プロジェクト参加型」、広範囲の地点から情報を集め分析する「多地点データ協力型」、全 員で一つのテーマで意見交換する「同 一テーマ情報交換型」などが多い。 筆者がケニアナイロビ日本人学校に赴任した間、インターネットを活用した様々な共同学習に参加 したが、子どもたちが興味を持続し、継続的な交流へと発展したこと が少なかった。それは、「イベ ント的な単発交流」、「不特定多数への情報発信」、「異学年による発達段階の不一致」などの課題を 抱えていたからである。 そこで、これらの課題を解決するために、帰国後ケニア産のトウモロコシをきっかけに共同交流学習を試みた。 4月、赴任した学校でケニアの暮らしや様子を子どもたちに話したところ、ウガリという食べ物に興味 をもち、食べてみたいという子どもたちが多かった。 5月、ケニア産トウモロコシを育ててみんなでウガリを食べようということになった。また、日本産トウ モロコシやアメリカ産ポップコーンも一緒に育ててみることにした。そし て、トウモロコシをテーマに総 合的な学習活動をしていくことにした。 3種類のトウモロコシを育てようとすると、畑が狭いことが分かった。また、ケニア産のトウモロコシの 種がたくさん余った。 そこで、教師の働きかけもあり、インターネットでケニア産トウモロコシを一緒に育ててくれる学校を 募集したところ、全国の小中あわせて18か校が参加してくれることとなった。同時に、ケニア産トウモ ロコシをきっかけに多くの人や学校と交流しながら、総合的な学習はできないものかと考えた。 そして、ケニア産トウモロコシを使った共同学習を「コーンプロジェクト」と名付けて取り組むことにした。 |
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3,学習の展開及びその留意点 (1) トウモロコシを中心素材に据えた連続性の興味ある活動 @ コーンプロジェクト掲示板 メーリングリストで全国18か校と一緒にケニア産トウモロコシを育てることとなった。情報を効率的に共有するために新潟インターネット教育利用研究会(NICE;Niigata Internet Conference on Education: URL=http://www.nice.or.jp)の協力で、Web上にcgiを使った掲示板を設置した。(URL=http://www.nice.or.jp/cgi-bin/corn.cgi A 成長比べ トウモロコシの成長観察を行う過程で、山形県の鳥海小学校から定期的に成長報告をしあおうと提案があり、週に1度「茎の高さ」、「葉の長さ」、「全体の高さ」を電子メールで報告しあった。また、定期的に報告されるデータをもとに成長グラフを作り、各学校の気温と成長の関係を話し合った。 B コーン新聞 18か校で育てるということは、18か校の情報を扱うことになる。4年生段階で18か校の情報処理するのは困難であり、多量の情報は子どもたちの考え方を混乱させる原因ともなる。そこで、6月に自分たちの活動を振り返る場面を設定した。「コーン新聞1」と題し、種との出合い、他校との出合い、アメリカ人のマルチネスさんとの交流、アフリカを調べたことなどを絵や写真を入れてグループごとに1枚の新聞にまとめた。 (2) テーマの柔軟性から生まれる発展的な活動 〜アワノメイガの観察〜 順調に成長していたトウモロコシであったが、今年は害虫の被害が多い年でもあった。上下浜小学校から「茎と葉の間にオガクズのようなものがありました。中を見ると幼虫がいました。」というメッセージがコーンプロジェクト掲示板にあがった。早速、調べようとしたが学校の図書館では情報が足りず、市内の中央図書館や他の図書館で園芸関係の本を調べる子、インターネットで調べる子、農業試験場に電話をかける子などがいた。その結果、その幼虫は「アワノメイガ」というトウモロコシにつく害虫であることが分かった。すぐにコーンプロジェクト掲示板に報告し、他の学校へインターネットで警告情報を発信した 自校だけでの取り組みであれば、害虫の被害によって、栽培活動をあきらめてしまいがちである。しかし、共同で育てている意識から、アワノメイガの正体を調べようと幼虫から成虫までを観察することになった。また、害虫をキーワードに、農薬を使った方がいいのか、人間に害の少ない農薬はないのかという話し合いが掲示板で行われた。その結果、木酢液が有効ではないかという結論に行き着いた。 (3) 他校から学ぶ直接交流 参加校の一つである森町小学校から「表町小のトウモロコシを見てみたい」という内容の手紙が送られてきた。そこで、表町小で直接交流の機会として、学校紹介、地域紹介、焼きトウモロコシ大会をした。紹介場面では、本校の子どもたちも内容を吟味し、資料を使いながらの発表を心がけたが、それ以上に森町小が大きな写真や絵を使い、わかりやすく発表していることに感心していた。 その経験が9月の森町小への訪問に生かさた。当日は全校の前での発表となり、写真や絵を使い、さらにインタビュー形式で双方向の発表になるように工夫、発展することができた。 (4) 交流から生まれる主体的な活動 森町小と上下浜小との直接交流によって、メールや掲示板での情報交換では出てこなかったトウモロコシの成長や害虫、地域、学校の様子などの話題が出てきた。その後、他校と情報交換を続けるうちに、調べる対象がグループの課題から自分のこだわりへと変化していった。「ウガリにつけておいしいものを調べて森町小と一緒に食べたい」「トウモロコシの成長を紙芝居にして紹介したい」「トウモロコシ料理をつくってホームページで紹介したい」など、交流によって相手を意識した主体的な活動へと発展していった。 (5) 場に応じたメディアの工夫 山形県の鳥海小学校にもいってみたいと子どもたちが地図で調べたところ、日帰りができないことが分かった。そこで、NetMeetingを使った同時テレビ会議システムで交流することにした。当日はお互いの活動を振り返るなどリアルタイムな交流により、遠く離れた相手を身近に感じる機会となった。また、表町小はウガリとポップコーンを試食し、鳥海小は紫トウモロコシの試食や木酢液が人間の体にもいいことを紹介するなどTV画面を通しての交流を深めた。 (6) 外国人との交流学習 〜 違いから共通点を感じる 〜 ケニア産トウモロコシを収穫してウガリを食べようと、メーリングリストで「ウガリが作られるアフリカの方を探しています」と情報発信した。すると、タンザニアでもウガリを食べていることがわかり、湯之谷村在住のタンザニア人ジュリアスさんにたどり着いた。 早速連絡を取り、ウガリパーティーを行うことにした。保護者の中にも子どもを通してウガリを食べてみたいという希望があったので、日曜参観でウガリパーティーを実施した。また、アフリカのことを直接質問できる機会でもあるので、全国18か校からの質問メールを受け付けた。 当日のウガリ作りで子どもたちは最初、あまり間近でみることのない黒人に緊張してた。しかし、ウガリ作りが始まってからは、上手に作るジュリアスさんに少しでも近づきたいと積極的に質問していた。また、ジュリアスさんの話す日本語に親しみをもち、外国人という意識を忘れ、気軽に会話している子どもたちが多かった。 ウガリの味についても3分の2くらいの子どもたちが「おいしかった」と答えていた。子どもたちの感想には「肌の色は違うけれど、日本人と変わらない」、「今度は、ジュリアスさんに日本の料理を教えてあげたい」、「ウガリは日本のおもちに似ている」と肌の色や国の違い、生活文化の違はあるが、自分たちとの共通点も多くあることに気づいていた。 |
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4,学習計画
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5,学習を振り返って (1) 総合的な学習スタイルとして定着できたか それぞれの学校が独自のテーマをもち、互いに情報交換し、情報を共有しながら活動する共同学習が十分可能であることが分かった。また、ケニア産トウモロコシだけでなく他のトウモロコシも使い、複数の素材を取り入れて学習することが可能であった。 当校では、3種類のトウモロコシを収穫し、食べる活動だけにとどまらず、その後もトウモロコシを素材とした他校とのインターネット交流が続いている。 (2) コミュニケーション能力を付けることができたか このようなスタイルの共同学習は、他校との情報授受、交流学習という形態を多く取るため、コミュニケーション能力や情報活用能力が特に必要とされた。 さらに身近な地域の人、外国人を含めた方との直接交流を取り入れることによって国際理解教育の学習ともいえることできた。また、年間指導計画を念頭に入れた活動を組織したことによって、クロスカリキュラム的な学習を成立させることができた。 また、共同学習によって自分たちでは気づかなかったところに気づいたり、自分たちの意見が全体の活動を活性化させたりと子どもたちが成就感をもちながら活動していた。 (3) 今後の課題 3校以上では、他校からの情報が多くなり、自分たちの活動を阻害することもあった。情報選択能力を発達段階に応じてどのように身につけさせるかを考えねばならない。また、様々な学校からの依頼に答えるとその対応に多くの時間を使ってしまい、本来の活動時数が減ってしまった。 より一般的な学習スタイルへともっていくためには、誰もが簡単にいつでもできるような条件設定をしなければならない。ハード面においては、インターネットを中心とする情報機器の使いやすさの充実やいつでも他校とリアルタイムに交流できるコンピュータの設置が必要である。交流する相手が遠ければ遠いほど、テレビ会議のようなシステムは利用価値が高い。 ソフト面では国際理解というと外国の方ならだれでもとなりそうであるが、それぞれの目的に応じて、ふさわしい方を事前に連絡調整しておかなければならない。インターネットにより情報を収集するのが容易になってきた分、教師自身が人と人の直接的な交流を大事にしていかなければならない。普段から外国の方と接する機会を作っておくと、ネットワークを広げやすいと感じた。 |