米来小学校における国際理解教育
1 地域と学校
米来小学校(男子57名, 女子56名, 計113名)の学区は,米子道と国道181号線が交差した交通の便のよい人的交流の活発な地域である。さらに,古くから条里制がしかれていたという歴史もあり,恵まれた自然環境を生かした農業の盛んな地域でもある。
本校は,今年で開校132年目を迎える歴史があり,そのことは保護者や地域の人々の愛校心を育み,学校に対する惜しみない協力となって現れている。生活科・クラブ活動のゲストティーチャー,稲作・野菜作りの支援等は,本校に定着し,学校と地域を結ぶよき接点となっている。
また,久世町は早くから「開かれた学校づくり」を念頭に据え教育の充実に取り組んできた。平成6年に新設された本校の新校舎は,オープンスペースをふんだんに取り入れてあったり,コンピューター室が完備されていたりと学校に寄せる地域のなみなみならぬ熱い思いが伝わってくる建物である。
しかし, 国際理解教育の面から考えると地域に居住する外国人は少なく、日常的に外国人と交流する機会はほとんどない。したがって,学校教育において意図的・計画的に交流する場を設定しないかぎり,相互の交流は深まらないと考える。
2 研究主題
「 米来から世界へ 〜共に生きる〜 」
3 研究主題設定の理由
本校児童は,穏やかで自然に恵まれた地域のなかでのびのびと育っていて人格形成の面でもよい面が多く見受けられる。特徴としては,素直でまじめであり,目標に向かって熱心に取り組むよさがあるが,新しい事柄に進んでチャレンジしようとする新取の気風には今少しの感がある。
ところが,今日の社会(世界)情勢は必ずしも,このようにゆったりとしたものではなく,いい意味でも悪い意味でも政治・経済・社会のあらゆる場面で「国際化」が進展している。たとえば,地球温暖化はどんどん進み,地球規模でその対策が求められている。他国で起こった国際紛争もわが国と決して無関係に進行しているのではない。
また,現代は地球規模での情報化時代であり,われわれは世界中の様々な文化や考え方をもった人たちとも瞬時に交流できるようになっている。
このような背景からしても,われわれは本校の児童を国際感覚をもった地球市民に育てていく必要性を強く感じている。そのために,われわれは子ども達に異文化の人々と豊かに交流できるコミュニケーション力をつけると共に,他者を正しく認識する力や他者の立場を豊かな感受性をもって理解し共感する力,自己の信念を明確に持ち積極的に表現できる力を身につけさせたいと考えている。
そこで本校では,「国際理解教育」を教育課程のなかに重点的に取り上げることにより国際感覚を養う基盤づくりを行なっていくことにした。
しかし,本校における「国際理解教育」の取り組みの歴史は浅く,ALTを招いての2週に1回の簡単な英会話授業を実施している段階であった。そこで,指導にあたってはALTの指導による英会話授業や国語の授業や読書などの指導を通じて言語能力を高めるとともに,全人的な教育を重視した取り組みを進めていきたい。
さらには,さまざまな年代の人,障害がある人,外見や生活様式の異なる人,価値観の異なる人との交流を工夫して実施することにより,自然のうちに人権意識をはぐくんでいきたいと考えている。米来小学校の児童が自分の住んでいる地域や自国の文化を深く理解し,愛着と誇りをもって外国に発信できる日が近いことを願っている。
このように身近なかかわりを大切にしながら,次第にグローバルな視点へと導いていきたいと考え本テーマを設定した。
4 研究組織体制図[略」
5 研究の経過
@ 思いを出し合う。
・T―KJ法で各教員の思いを出し合い,国際理解教育を通して米来の子どもたちをどう成長させていくのか深める中で,今年度の研究テーマを設定する。
・「相手の顔が見える国際交流を」「地球的規模で考え,地域で行動しよう」を合い言葉に実践を始める。
A 文献・資料の読み合わせ
・今,なぜ国際理解教育が必要なのか、どんな力を子どもたちにつけさせるのか効果的な進め方とは…文献・資料を読み合い共通理解を図り,研究構想図を作成する。
B 講師の招聘
・龍谷大学教授 小島 勝先生をお招きし,国際理解教育の基本的な考え方,効果的な進め方,今後の方向性について研修する。・低・中・高学年の取り組みについて,示唆を受ける。
C 先進校の視察
・5月14日(火)旭竜小学校へ
・7月11日(木)平福小学校へ
何年も積み上げてこられた学校の取り組みの様子を聞き,授業参観・校内の視察等をする。
D 海外在住経験のある先生の話を聞く会
・本校職員による「経験者は語る」会
・ブラジル・シンガポール・インドの日本人学校に3年間勤務した者・中国に留学した 者の話
・外部講師による「経験者は語る」会
・トルコに現在留学中の先生の話。
教師の国際感覚を身につける上で,各国の生活の様子,文化の違い,自然環境等実物や写真等の資料を見ながら学べたことも,認識を新たにする機会となる。
E 外国人との直接交流
・隔週のALTによる授業
・アフリカ青年との交流会
(休日だったので希望者のみ参加)
各学年部ではそれぞれの交流国の人たちと何回か直接交流を持つ機会を設定している。いずれも五感を使って直接ふれあうことで,異なる文化をもっている人達とも内面から理解しあうことができるような体験活動となっている。
F ワールドコーナーの設置
・
近に国際感覚が体験できるように図書室の一角をワールドコーナーとし,保護者の協力も得て外国の品物を展示する。トピック的な取り組みについてはよく目につくよう児童玄関に掲示をする。
・ 校報や学級通信などでの呼びかけに対し,多くの保護者から貴重な品・思い出の品の提供を得る。
G 給食に外国のメニュー
・ 学期に2〜3回ずつ外国のメニューを献立に入れる。あわせて手だけで食べるなど食事の仕方についても可能なものは体験する。
・ 韓国・インド・スペイン・イタリア・イギリス・アメリカの献立を予定している。
6 これまでの成果と今後の課題
・ 一丸となって取り組んだことにより,今まであまり経験することができなかった外国の人や海外滞在経験者との交流活動が実施でき,子ども達の外国に対する関心が高まった。また,直接外国の人に接することにより,多様な人達と仲良くすることができるようになってきている。このことは,障害をもった人との交流も含め,人権意識の高揚にもつながっていると思われる。
・2学年での合同学習については,T.Tにより指導効果が上がると考えていた。教師のそれぞれの長所が生かせた り,発想が広がったりすることや,役割分担ができるという指導が行え,予想通りの結果が得られることが多かった ように思う。また,単学年だけでは利用しにくいオープンスペースを,有効に活用することができている。
・ 来年度以降も国際理解教育を柱として研究を続けていきたい。2学年合同の学習を行う場合,児童の発達段階を考慮し複数年にわたる見通しのある指導内容の作成や評価をどのようにしていくのかについても検討をすすめていきたい。
・ 英語力やIT機器の活用能力の高い職員の配置について充実を図るとともに,現職員自らの能力を高める研修の必要がある。
・ 本テーマについての研究は,緒についたばかりである。今後,国際理解教育を教科や道徳など教育課程全体の中で具体的にどう推進していくのか,さらに検討を加えていく必要がある。