【講演】
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演題「品性ある子に育てたい!アメリカに見る学区で取り組む品性教育」 |
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講師 岡山大学教育学部 青木 多寿子 助教授 |
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1 はじめに
私は平成10年から2年間,アメリカに滞在しました。そこで考えたことを話すことで,日本の国際理解教育に貢献できたらいいなと思っています。
二人の子どもをアメリカ,カンザス州ブルーバレー区にある公立小学校に通わせる前,アメリカの学校教育には期待していませんでした。その後,その考えが大きく変わっていきました。アメリカでは,国を挙げての教育改革の成果が現れていたのです。これから,その辺りの話をしていきます。
2 日米の道徳性の違い
カンザス州では,アルコールやタバコを簡単に子どもに渡らないようにしたり,本屋に行っても子どもはポルノ雑誌を見れないようにしたりするなど,子どもをきっちりと守ろうとする環境やシステムがあります。日本で流行った「もののけ姫」は,アメリカでは,暴力シーンが多いということで未公開になっています。日米でとったアンケートの結果を比較してみると,親や学校,飲酒や性に対する考え方など,日本の子どもの方が道徳性が低いことがわかり,気をつけていかないと大変なことになると感じました。
小さい子どもの事故を減らすために,高校生や中学生を小学生より先に下校させる学校の時間帯を作ったり,子どもだけで家にいないようにするために,ベビーシッターを充実させたりするなど,上手に社会の仕組みを作っています。
3 学校区の品性徳目教育について
日本は学力を重視し,人間性は鍛えられていません。道徳徳目やルールも学校によって,クラスによって異なっていて,人の顔色を見ながら行動している感じです。しかし,アメリカのブルーバレー学区では,学校に明確な教育目標と品性徳目があり,幼稚園から,小学校,中学校,高校を通して学ぶ道徳価値基準が統一されていました。そして,それは,アメリカの教育目標とも共有化していて,個性を尊重し,社会に貢献できる市民を育成しようとしているのです。教育目標が明確で,一貫しているから子どもが迷うことがなく,親も安心して子どもを学校に行かすことができるのです。
ここで,品性徳目教育について,もう少し詳しくお話します。学校区全体で統一した道徳基準である品性徳目は8つあり,学校で1ヶ月に1徳目を順番に,重点的に取り上げていきます。また,学校では,それらを中心に年間行事に組み込み,各教科と関連付け,教科の枠を越えて日常的に品性徳目が身に付くように工夫しています。
その8つの品性徳目とは,以下の通りです。
@ 責任感(「自分の約束を果たす」「間違いをしたら,素直に認める」など。)
A 尊敬(「他者の考えを大切にし,だれにでも親切にする」「だれにでも親切に接する努 力をする」「他者の個性,属性に注意深くなる」など。)
B 忍耐強さ(「やり始めた仕事は最後までやる」「一生懸命やる」「他者と協力する」な ど。)
C 奉仕(人生の最大の満足感は,他者への奉仕によって得られることを発見する。)
D 自己統制(よい生活習慣を身に付け,個性という制限の中で生きていることを理解す る。「順番を守り,他者を待つことができる」「自分の手,足,物を自分で統制できる」 など。)
E 正直さ(自分自身をオープンにする。「自分の誤りを認め,悪いところはよくなるよ うに努力する」「だれにでも,完全,真実な情報を与える」など。)
F 思いやり(たとえ相手が悪い場合でさえ,互いに理解しあうように努める。「違いが
あってもよく,それは何の問題もないことを忘れない」「援助が必要な人を助ける」「他 者をからかわない」など。)
G 勇気(反省する勇気をもつ。「それが簡単なことでなくても,正しいことをやる勇気 を十分にもっている」「他者を同じだと励ますことができる」「他者のよいところを探 すことができる」など。)
このような品性徳目教育に力を入れ,地域と連携して子どもたちを健全に育てようと努力しています。日本人も,これらの徳目をしっかりと身に付けていくことができればいいと思います。私自身も,小さい頃からこういう教育を受けていれば,もっと違う自分になっているだろうと感じます。
4 アメリカの道徳教育の変遷
品性徳目はキリスト教の影響を受けたもので,学校が始まって以来存在していましたが,20世紀に入ると道徳性は個人の問題とされるようになり,品性徳目は衰退しました。しかし,1990年代なって離婚の増加や貧困層の問題などから家庭の教育力が低下したため,みんなが共有する倫理的徳目が必要ではないかと考えられるようになり,品性徳目教育が注目されるようになっていきました。そして,今,その成果を挙げようとしているのです。
5 生徒指導と品性徳目
品性徳目は,子どもたちの問題行動に関する生徒指導の際にも用いられ,対処の仕方については学校全体の統一ルールがあります。子どもが問題行動を起こした時は,最初に「どこがよくなかったのか。」「どの徳目を忘れていたのか。」を考えさせ,適切な形式を用いて,書いて反省できるようにします。本人が書いたその反省を家に持って帰らせ,両親と内容について話し合い,保護者のサインをもらって翌日,学校へ持ってこさせることになっています。できるだけ早い段階で保護者に子どもの状況を伝え,親子の会話の中に子どもの問題行動が話題としてあがることを目的としています。また,教師も生徒指導を行なう時に,単に子どもをしかるのではなく,品性徳目をベースに反省させるのです。品性徳目をベースに何が問題で,どのように対応すればよいのかを児童生徒自身に反省させた資料が保護者と教師の相互共通理解の基盤であり,共通の情報になっているのです。このように,品性徳目教育は生徒指導や保護者との連携という面でも成果を挙げています。
現在,アメリカはイラクへの軍事介入等で評判はあまりよくありませんが,良いものは良いとして,品性徳目教育を日本も取り入れていくべきではないかと思います。