「デトロイトにおける現地交流について」 倉敷市立南中学校
教諭 中川 健二
在外教育施設での勤務内容については,研修や帰国報告等の機会に研鑽を深めることができます。しかし,任地に赴いてどのように現地の人や環境に慣れ,交流を深めていったかということは,なかなか伝わってこないところがあります。このため,私が赴任中に現地の方々とどのような関わりが持て,またどのように現地の環境に馴染んでいったかを,簡単ながらも報告したいと思います。
1.現地の環境について
(1) 子どもの通学する学校
移民の国だけあって,米国外から移住してきた子ども に対して,万全の受け入れ態勢をとっています。特に英 語を母国語としない,英語が理解できず普通授業が受け られない子どもに対しては,ESLクラスで英語の訓練 を1年程受けて,所属する普通授業のクラスへ戻ること 待機中の通学バス
にしています。ESLクラスは特別に編制された専属教師が2〜3名,丁寧に指導を行 ってくれます。
(2) 現地採用の人との交流
補習授業校への政府派遣教員は3名しかおらず,事務長を含む事務局職員は,現地に 永住する日本人が現地採用職員として勤務しています。派遣教員は3年で交代しますが, 現地採用職員は,補習授業校の様子や現地の事情に精通しているため,彼らの協力なく しては円滑な仕事ができません。このため,休日は家族でパーティに招待したり,招か れたりして交流を深めることによって,現地での安全で快適な生活を確保することがで きました。
(3) 休日の旅行による文化施設の見学
帯同していた子どもは中学生という,文化に好奇心
を示す時期であったため,世界的に有名な美術館や博 物館,景勝地を積極的に訪問し,見識を深めるよう努 力しました。訪問先も,はじめは自宅から近い距離に ある場所から徐々に訪問して,生活に根付いた現地理 解をするように心がけたことは,自然に現地に溶け込 める良い手順でした。
グランドキャニオンの絶景に感動
2.現地の人との交流
(1) ESL(English asaSecond Language)への参加
大人にも英語を早く習得し,米社会で早く自立できるように英語教室が開設されてい ます。夜,仕事を終えた後,週に1〜2回参加することによって,英語力の向上と他の 国から来た人たちと直接話すことができ,直接国際交流をすることができました。
(2) 近隣の人とのつきあい
近所の人とは気軽に挨拶はするものの,それより近づきになることはやはり難しいも のがあります。日本文化の紹介や,子どもの保護者を介して付き合いを深めていくこと が,有効な方法でした。
(3) 現地教育関係者(コーディネーター,カストーディアン)との交流
現地の教育施設を借用しての授業展開となるため,現地教育委員会のコーディネータ ーやカストーディアンと日頃から仕事以外のことでも会話を積極的に交わすことで信頼 関係を確立し,より充実した実践へと結びつけることができました。
「海外での文化交流を通して学んだこと」 前アメリカ合衆国デトロイト在住
中川 敦子
3年間海外で生活して,私が一番強く感じたことは,”私たちは日本人なのだ”ということです。これは私だけでなく,海外での生活を経験された多くの方が感じておられることではないかと思います。
特にアメリカのように多くの民族が同居している国では,その気持ちは益々強くなっていきます。
私たちが生活していたミシガン州デトロイトは,世界を代表する自動車メーカーの本拠地です。日本をはじめとする世界各国の自動車関連会社や,そこで働く人々,そしてその豊かな経済に職を求めて集まる人々…と,地域や子どもたちが通う現地の公立学校は,まさにインターナショナルな集まりでした。
そして,そこでは多くの”インターナショナルの集い”が催され,各国の文化紹介が盛んに行われていました。どの国の人々も,自国の文化に誇りを持ち,自信を持ってそれぞれの国の伝統的な行事や食べ物,民族衣装などを熱く紹介しているのが印象的でした。そんな中,私たち日本人もお琴の演奏会やお茶会,日本料理の試食会,着付けや折り紙の講習会など多くの文化を紹介しました。
文化交流会にて
しかし,このような日本文化を紹介しながら私が少しだけ疑問に感じたのは,こういった伝統的な文化が,今の日本の国内でどのような位置に置かれているのだろうかということです。海外や外国人に対しては積極的に紹介されている伝統的な文化が,残念なことに日本国内や日本人の間では影が薄くなっているのではないかと思います。実際,私自身国外へ出て初めて,日本の文化のすばらしさや他の国の人々の日本文化に対する期待に気づいたような気がします。
以前,アメリカで生活をする多くの民族は,誰もがアメリカ人になりきることを求められていたようです。しかし,今のアメリカは違います。それぞれの国の人々が自国の文化や伝統を守り,そしてそれを互いが認め合い,その中で1つの国を造り上げようとしているのです。私たちも,日本の文化や伝統を正しく理解し,身につけていくことを期待されているのです。
多くの民族が入り交じる国際社会においては,互いが融合することと共に,個々の根がどこにあるのかをはっきりさせることも大切なのだということを知りました。このような貴重な経験を通して,私は今まで以上に自分の国を大切に思い,日本人であることに誇りをもてたことに感謝しています。これからもこの気持ちを忘れずに、国際理解に努めていきたいと思っています。
フィールドトリップでの訪問先で