「ワルシャワ日本人学校に赴任して」
ワルシャワ日本人学校 田中耕二
 
 ポーランドと言えば,日本人にとってなじみはほとんどなく,とても遠い国だと思われるかもしれません。わたしも,ポーランドへの赴任が決まったとき,「ワルシャワ条約機構」しか頭に思い浮かびませんでした。そんな未知の国ポーランドでの生活もまもなく2年になろうとしています。
 ポーランドという国名は,「平原の国」を意味するそうです。その名の通り,山はほとんどなく,郊外に出れば見わたすかぎりの小麦畑,その向こうに地平線という広大な風景を楽しむことができます。気候は,日本で言えば北海道くらいだといわれます。寒さは厳しく−15度〜−20度になることもあります。緯度の関係で冬は日照時間がとても短く,午後4時には真っ暗になります。一方,4月の春の訪れは感動的で,一足飛びに新緑の季節を迎えます。花々が咲き出す時期になると日照時間はどんどん長くなり,夜の9時でもまだ外は明るいほどです。夏は30度を越える日もありますが,日本のような湿度がないので,本当にさわやかです。
 よくポーランド人は何語をしゃべるの?と質問されますが,彼らはポーランド語を話します。ポーランド語は,非常に難解です。発音の難しさももちろんありますが,それ以上にやっかいなのが語尾変化です。すべての語が使われ方によって複雑に変化するのです。固有名詞である「田中」でさえも「タナコン」になったり「タナキ」になったりして,名前を呼ばれてもよく分からないこともあります。また,英語が通じることが西洋諸国に比べてまだまだ少なく,コミュニケーションをとることが難しい場合もあります。しかし,一方でポーランド人はたいへん親日的な国民でもあります。我々日本人に対しニコニコしながら話しかけてきたり,困っていると親切にしてくれたりします。これは,先進国日本へのあこがれの他に,宿敵ロシアを日露戦争で打ち負かしてくれたという歴史上の事実がそうさせているのだという人もいます。いずれにしても,この対日感情のよさが,言葉の分からない私を何度となく助けてくれました。
 私が赴任したワルシャワ日本人学校は小規模の学校です。昨年度,一時子どもの数が,16名にまで減り,学校運営上危機的な状況でしたが,今年度は25人まで持ち直しました。小学部が低・中・高の3クラス,中学部1クラスの計4クラスがあります。授業形態は実技教科を除いて,単式授業を中心に行っています。また,教科担任制を基本としていますので,ほとんどの教員が低学年から中学生まで幅広く教えています。
 本校は以下の5つの方針を掲げ,教育活動を行っています。
@基礎基本の徹底指導
 主要4教科(中学は5教科)における,評価基準を明確にしました。そしてそれに向けての工夫や取り組みを共有化するために手だて案集を作成し,一人の教育財産をみんなのものにしようとしています。また,個人カルテを作成し,それぞれの到達度と伸びとが常に明確になるようにするとともに,個に応じた指導に役立てています。また,このカルテには,英単語能力やタイピング能力,読書量なども記入するようになっていて,より総合的に児童生徒を捉えようとしたものになっています。
A英会話教育の推進
 今年度よりネイティブによる英会話の時間を週2時間設定し,能力別に3クラスに分け実施しています。また,毎日15分基礎英語の時間をとり,学年ごとにテキストを使い学習しています。それに加え,全学年で英単語検定を随時行い,語彙を増やす取り組みをしています。
B情報教育の充実
 1人1台使用できるようコンピュータを買いそろえました。また,インターネットに常時接続させて,いつでも調べ学習などに活用できるようにしています。活用能力を高めるため,タイピング検定を行うとともに,今年度は1人1人が自分のホームページを作り,管理しています。学習の記録や自分の作文をホームページに載せている子どもも多く,教科のまとめ活動の一環として利用しています。
C読書指導の拡充
 朝読書の時間を毎日15分とっています。また,今年度から図書委員会を設立し,子どもの本の紹介活動なども活発に行われるようになりました。年間100冊以上本を読む児童も多くいます。
Dコミュニケーション能力の育成
 聴く力,発表する力,話し合う力,交流能力をコミュニケーション能力と位置づけ,ワルシャワタイムでの発表,現地校との交流,ワルシャワ大学生とのふれあい活動などを行い,コミュニケーション能力の育成を図っています。
 今年度は文部科学省より在外教育施設研究協力校の指定を受け「個を輝かせるための評価基準の作成と評価方法の工夫改善」というテーマで研究をしています。5つの教育方針を中心に小規模日本人学校のメリットを最大限に生かす教育をこの機会に研究,実施していこうと考えています。任期延長の希望が叶えられ,来年度もこのワルシャワの地で働けることになりました。いよいよ3年目。学校の中で果たす役割もさらに大きくなることと思います。初心を忘れず,誠実に,そして一生懸命自分の任務を遂行したいと考えています。
 
 
 
 
 
 
 
       全校児童と職員   現地校との交流
 
 
 
 
 
 
                ネイティブの英会話