カルチャーショック
       瀬川尚美
 カルチャーショックという言葉を聞いて、みなさんなら何を思い浮かべますか?また、何を思い出しますか? 派遣国へ降り立ったときのこと、現地での生活のこと、日本を離れて暮らしたみなさんならいろいろと思い浮かべていらっしゃることでしょう。
 カルチャーショックというのは、異文化に接触したときに起こります。異文化を住居地とか職業とか趣味とか、自分の属性のどこに境界線を引くかによってカルチャーショックというのは日常的に起こりうることなのです。だから、海外でなくても日本国内でもおこるということです。
 今回は、異文化を日本文化とは違う海外の文化ということにしましょうか。派遣国で受けたショックは、もちろんカルチャーショックです。そして、帰国してからなぜか日本文化にショックを受けた方、いらっしゃいませんか?これもカルチャーショックです。ちなみに、これには、「リエントリーショック」という立派な名前が付いています。
 さて、なぜ、カルチャーショックって受けるのだと思いますか?ようく考えてみると、いつの間にか自分の中に「これが正しい。これが普通だ。」なんていう概念をつくっていらっしゃいませんでしたか?異文化に接したときに、物事をこの自己概念に当てはめて見てしまうので、カルチャーショックというのは起こるらしいのです。もちろん、リエントリーショックもです。
 そういえば、私はあこがれの国ドイツに行ったのに、ドイツ人の友だちには「日本はこうだ。」という話し方をよくしていました。これって、カルチャーショックを受けていたんですね。
 でも、このくらいのショックなんていい方でした。ドイツに行って2回、「ドイツ語きらい!!ドイツ人に会いたくない!!」病にかかりました。ドイツ語を聞いても分からないし、うまく話せないし、話したら聞き返されるしで、不安になったことがありました。
ドイツのスーパーのレジの人には、「おはよう」とか「ありがとう」とか必ずあいさつしなくちゃならないし、ときには話しかけてきたりするもんだから、食料を調達しにいくのもおっくうでした。
 そんなふうになっていたけれども1ヶ月くらいで立ち直りました。カルチャーショックって永遠に続くわけではないのですね。それからは、ドイツでの生活を受け入れ、ドイツの考え方も自分の中で当たり前になりました。つまり、異文化に適応してしまったのです。「カルチャーショック」は、乗り越えれば「異文化適応」に変身するのですから、カルチャーショックは悪いもの、とは一概には言えません。むしろ、自己を広げるよいチャンスなのかもしれません。
 ドイツで3年間暮らして、それなりに適応して日本に帰ってきたとき、ドイツに行ったとき以上のショックを受けました。リエントリーショックからは、なかなか立ち直れませんでした。こういう人って、案外多いそうですよ。何にショックを受けたかというと、スーパーで売られている大根が真っ白だったことやら、日曜日に店が開いていたことやら、電線が張り巡らされていたことやら、包装紙でいっぱい包んでいたことやら、リサイクルしないで燃やしているごみが多かったことやら、もう、あれやこれやがショックでした。でも、これって、日本文化(自文化)を今までとは違う目で見ていたということだったんですよね。異文化に触れなかったら気がつかなかったことに気がつくことができ、自文化を見直すことができたのです。
 カルチャーショックを受けているときは苦しい。でも、それを乗り越えられたら、異文化を受け入れられ、次に違う文化に接したときに必要になる適応能力を開発していくことできるのです。あえてカルチャーショックを受けに外の世界に出ていくのも、いいのかもしれません。