「デトロイトに滞在する日本人生徒の学校生活」 
            倉敷市立南中学校
教諭 中川 健二

                             (元デトロイト補習校)                     

はじめに

みなさんご存知のアメリカについて,実生活の体験を通して見たこと・知ったことを率直に紹介します。しかし,ここで紹介するのは,アメリカ合衆国の中でもミシガン州という北東部での生活体験です。アメリカ全体に共通することもあれば,ミシガン州特有のこともあることを念頭においてごらんください。

1.デトロイトはどんなところ?

 アメリカ合衆国ミシガン州にある自動車産業で有名な都市です。周囲を五大湖(エリー湖,ヒューロン湖,ミシガン湖,スペリオル湖,オンタリオ湖)に囲まれた緑の多い環境にあります。

カナダとの国境はデトロイト川をはさんですぐです。ここは,エリー湖にカナダ側から突き出ているポイント・ピーリーの先端です。カナダの最南端の地でもあります。五大湖はどの湖でも海のように大きく,水平線が見えます。

緯度は北海道の札幌と同じくらいです。このため,冬は長く(11月から3月まで)とても寒いです。時には5月上旬でも雪が降ることがあります。

 デトロイトは自動車産業が中心とあって,日本からも多くの関連会社が進出しており,たくさんの日本人が滞在しています。デトロイト周辺に滞在している日本人の人口は,約6000人と言われており,多くの人はデトロイト郊外の閑静な住宅地に住んでいます。

【郊外の住宅地は治安もよく,至って安全です。自宅の庭先でもロ−ラーブレードを楽しんだりバスケットボールの練習をしたりすることができます。春の訪れとともに庭先のチューリップも満開になります】

私たちが住んでいた近くにも大小さまざまな形をした湖がたくさんありました。地形が平らなため,小川がゆったりと湖へ流れており,格好のカヌー遊びができる場所があります。

休日にゆっくりとカヌーをこいで,自然の中へ入り込んでいくのは,とてもリラックスできて楽しいです。こんな過し方も現地の生活に慣れてきた頃から始められます。

自宅周辺には野生の動物が生息しており,リスは庭によく遊びに来ます。時にはシカが出てきたりしました。

 よくお目にかかる動物は,このほかにウサギ,ラクーン(アライグマ),スカンク,カナダガン,カルガモなどです。湖が多いので,夏場はカメを道端で拾うこともありました。

【自宅の裏に設置してあったウッドデッキに現れたグラウン ド・ホッグという小動物です(赤の矢印)。おとなしく,と

ても警戒心が強い。もう何年も住み付いているようです。】

2.アメリカの学校はどんな雰囲気?

アメリカに滞在している日本人の子どもは,アメリカの学校(現地校とよく言われています)の教育施設が充実しているため,月曜日から金曜日まで現地校に通います。小学校から高等学校まで義務教育なので,住んでいるところの指定された学校へ通わなければなりません。

ミシガンの義務教育制度は,小学校が5年,中学校が3年,高校が4年それぞれ通学することになっています。

校舎は,敷地にゆとりがあるため,平屋建てが一般的です。

建物のドアは,出入り自由な所と,中から外にしか出られない所があり,外部からの安全確保がしやすくなっています。またバリアフリーの構造にもなっています。

通学はスクールバスが利用できます。自宅のすぐ近くにバスが停車してくれるため,気軽にバス通学ができます。次の写真は,中学校の駐車場に待機しているスクールバスです。

学校区ごとにスクールバスが運営され,登校時は高等学校,中学校,小学校の順にバスが運行されます。高等学校の授業開始は早く,7時30分頃に始まっているところもあります。これからそれぞれ30分〜40分後に中学校,小学校の授業開始時刻が決められています。下校も高等学校から始まります。14時30分には下校が始まります。中学校は15時頃,小学校は15時40分頃の下校となります。

この中学校の駐車場が広いのは,校舎の一部を地域の文化活動が利用しているためです。一般の大人が昼夜ともに自家用車で来校し,文化活動に熱心に参加しています。

学校からの連絡は,毎週末に各家庭へEメールで送られてきます。Eメールによる連絡は事前に了解した家庭にのみ送られてきます。ホームページを見ることからも情報は得られますが,各家庭に送られてくるEメールの内容は,その週に関係した最新の情報です。

校外学習の実施状況や,迎えに来る時間なども連絡が入ります。

《英語を母国語としない生徒への配慮》

英語を母国語としない生徒への配慮としてESLクラスを設置し,移住してきた子どもが,いち早くアメリカの教育が受けられるよう英語の訓練を行います。

中学校でも,英語を母国語としない生徒に,英語の訓練をするESL(English as a Second Language)クラスが設置され,早く英語が理解できるよう支援しています。

 

クラブ活動も盛んです。顧問の先生が朝早くから指導してくださっています。ただし,日本のように3年間同じ種目をするのではなく,3ヶ月〜4ヶ月間の限られた期間での活動となります。

また,種目によっては「入部テスト」(トライアウトと呼ぶ)があり,ある一定の技能を習得している人しか参加することができない部もあります。

【テニスコートは学校の敷地内にありますが,地域の人に開放されており,中学生がクラブで使用するとき以外は,自由に利用することができます。この中学校では全天候型のコートが7面ありました。ナイター設備が整っていることもあって,地域の人がよく利用しています。11月がら3月までは寒くて,屋外でのテニスはできません。】

テキスト ボックス: 【音楽は希望する楽器を選択し,演奏できるように練習します。授業の締めくくりとして,演奏会を近くの高校の施設を借りて行います。】 テキスト ボックス: 【芝生に覆われたサッカー場。冬季は雪に覆われることが多い。サッカーに主に使用されるが,とにかく広い。】 テキスト ボックス: 【校内の道路を隔ててソフトボールの専用グラウンドがあります。ここも広く,外野はクロスカントリーのコースにもなっています。】

授業校ってどんな学校?

補習授業校というのは,日本を離れてアメリカの学校へ通っている子どもたちが,日本語で日本の教育課程を学習する教育施設です。やがて日本へ帰ったとき,日本の学校へ通うようになっても,日本語やその学年の学習が理解できるように,日本国内で学習する内容と同じことを学習します。

デトロイト補習授業校は,昨年創立30周年を迎えた世界で4番目の規模を誇る補習授業校です。

幼稚園年長組が約120名

小学生各学年が約100名 

小学校全学年で約650名

中学生が約200名

高校生が約50名

全校で約1100名が在籍しています。テキスト ボックス: 【校舎は現地の小学校と高等学校を借用しています。毎週土曜日に方々から集まってきます。上の写真は事務局と小4〜高等部の授業が行われるシーホーム高等学校の校舎の玄関です。】

子どもたちの平均の滞在期間は約5年です。年月がたつにつれ,英語は上達していきますが,日本語の力を維持することに大変な努力を必要とするようになります。補習授業校は,その日本語を維持する役割も担っています。

【補習授業校では日本の教育課程に沿って学習を進めます。日本の学校で行っている学校行事も活発に行われています。小学部では音楽会をします。また,全校をあげての大運動会は6月に実施します。リハーサルの時間が十分にないなかでも,立派に演技が行われます。 】
卒業式も,日本と同じように行われます。デトロイト補習授業校の卒業式は小学部,中学部,高等部の児童・生徒が合同の卒業式となります。  

現地の学校と補習授業校の両方を修了するときの気持ちは,感慨深いものがあります。

おわりに

 これからアメリカでの生活を迎える人にとっては,お子さんの教育をはじめ不安や心配なことがたくさんあるかと思いますが,これまでに紹介してきたように,アメリカでは落ち着いた生活を送ることができますから,どうぞご安心ください。現地での生活が軌道に乗るまでには約半年間はかかると思いますが,あわてず自分の生活のリズムをつかむことで,日本では得られない貴重な体験が人生を豊かにしてくれると思います。

 学齢期の子どもさんは高校修了まで義務教育となっている現地校に通わなければなりません。英語力が十分でない場合は,ことばの壁につきあたり,苦労しながらも理解を深め,乗り越えていきます。渡米して約1年間はESLクラスで学校生活の習慣や英語力を身につける訓練がなされます。専門の先生が複数で丁寧に対応してくれます。この間に子どもはかなり現地の生活に適応します。みんな苦労しながらも乗り越え,たくましく成長しています。

 アメリカに滞在している間は日本の学校と離れるため,日本で行う予定の学習内容から遠ざかることになります。やがて日本へ帰国する予定の人にとって,帰国後の生活に大きな不安があります。そこで大きな役割を担うのが補習授業校です。1週間に1度だけの授業ですが,学習計画に沿ってしっかり学習していれば,着実に力がついています。

 帰国した人からのお便りで,補習授業校での学習がとても役に立っていることを知ることができます。

 期待と不安でいっぱいのアメリカでの生活は,大人も子どもも貴重な体験を経て大きく成長させてくれるものと思います。