1.はじめに。
成田からドバイでトランジットして2時間半ほど過ぎますと、飛行機内は急に慌ただしくなります。テヘランのイマームホメイニ空港への到着にそなえて、機内の女性達がヘジャブをまとう準備を始めるからです。そして到着するとすぐにイミグレーションに向かいますが、ここではいつも緊張が走ります。パスポートには、イラン在住許可のマルチビザのスタンプがおされているにもかかわらず、すぐに通してくれません。最近中東各地で発生しているテロなどの関係からか特に入国が厳しくなっています。ここ
イランでは、テロ等の発生はありませんが、予防のために厳しさもしかたのないことと観念して待っていると、入国スタンプが押され、通関に向かいます。イスラム国家では様々な持ち込み禁止のものがありますが、赤外線を通してアルコールなどの禁止物が無ければトランクを開けるなどのこともなく、通関は比較的緩やかです。しかし、以前は禁止物が見つかると没収されるだけでしたものが、最近は国外退去などの厳しい措置がとられるようになってきました。こうした変化は中東の政治・社会情勢と深く結びついているように思います。
さて、現在イランは他のイスラム諸国と同じようにラマザーン(断食月)を迎えています。今年のラマザーンは6月7日(火)に始まり、7月6日(水)に終わります。ラマザーンの間、イスラム教の人々は、朝、日が昇る前に食事をして、夕方日が沈むまで一切食事や水をとりません。日が沈むとともに食事をしますので、断食といっても一ヶ月の間、何も食べないわけではありません。イランにはイスラム教を信仰する人々だけでなく、ゾロアスター教やキリスト教徒もいますので、そうした人々は断食しません。日本人は普通の生活ですが、日中校外に出た時には人前で水を飲んだりすることは控えています。
テヘラン市は標高1600mの高地にあり、日本から持ってきたおかしの袋などは、パンパンにふくれてしまいます。イランというというイメージから、砂漠の国を思い浮かべるかもしれませんが、イランはサウジアラビアと同じくらいの領土の広さがあるため、イランの南方には砂漠が広がっていますが、北は4400m級の山脈に囲まれた高原地帯が広く、気候も異なります。ペルシャ湾に面しているバンダルアッバース(ドバイまで船で1時間ほど)は、夏の間は40度を超す日が続きます。バンダルアッバースから北に向かう間、大きな都市があります。シーラーズ、エスファハン、ヤズドといった都市は、ペルシャ帝国時代に栄えた都市で多くの世界遺産があります。特にシーラーズのペルセポリスは、アレキサンダー大王に滅ぼされましたが、その都市跡が保存されています。ペルシャ帝国のダリウス1世などのお墓をみると世界史で学んだことがなるほどとうなずけます。
そして砂漠の一本道を数時間走り続け次の都市に向かいますが、道路はきれいに整備された高速道路です。エスファハンやカーシャーンそしてコムなどの都市はペルシャ絨毯で有名です。特にシルクの絨毯は、1m×1.8mほどの大きさでこちらの価格で約30万円します。日本ではその価格が3倍から4倍ですので、大変高価です。一つの絨毯を織るのに手織りですので、2,3年かかると言われており、手間賃からすれば妥当なところかと思います。シルクで織るため、光の加減でいろいろに見えるとともに、絨毯というと重い感覚を想像しますが大変軽いものです。
テヘラン市内に入ると、すぐに交通渋滞に巻き込まれます。ガソリンの価格が現在値上がって1リッター30円ほどです。(以前は10円以下でしたので)ここに住む人々はガソリンの値段が上がった上がったと言っています。道路は2車線が4車線、5車線に広くなってきても渋滞のひどさで、普段10分で行ける所でも、1時間はかかります。街の北にはアルボルズ山脈(3000m級)の山々が見え、10月から4月のまでの間は雪で覆われています。街の雰囲気は、ちょうど軽井沢のような雰囲気で、プラタナスの木が植えられ高原のようですが、そば屋はありませんので、軽井沢とは違いますね。
このアルボルズ山脈の北には、カスピ海があります。カスピ海周辺は,ここは日本ではないかと錯覚するくらい、日本に似ています。JICAの指導のもとで日本米の米作も行われています。4月、5月は田植えの季節で、田植えをしている人々の姿を見ることができます。カスピ海は海と呼ばれるほど広大で、波もあり、少し塩からい味がします。ここではキャビアが有名です。
イラン人は、イラク人と同じように思えますが、イラクはアラブ人、イランはヨーロッパ系のアーリア人で、見た目もまったく違います。
また、現在、イランの回りの国々(イラク・シリア・アフガニスタン・パキスタンなど)の治安状況が良くないため、イランも同じように思いがちですが、イランはドバイやその近くの国と同じよう安定しています。また、現在の政権がアメリカやヨーロッパ寄りですので、日本でも核協議や経済・金融制裁の解除など,国を開く方向にあります。邦人企業もその数や駐在員の数を増やしています。
2.教育活動について
テヘラン日本人学校は、テヘラン市北のジョルダン地区にあります。本校の特徴は社会情勢により児童生徒数の変化がとても大きく変化することです。開校48年目を迎えていますが、多いときには300名近く、少ないときは10名以下の児童生徒数でした。現在は制裁解除により5名ほどの単位で児童生徒数が増えています。
さて、本校の教育目標は「最後までやりぬく子・やさしく思いやりのある・いつも明るく元気な子」です。そして教育目標達成のための重点目標として「確かな学力を持ち、グローバル人としての素養を持つ児童生徒の育成」を掲げています。多くの学校で経営の重点目標を掲げているのもかかわらず、それがお題目に終わっている現状(先生方一人一人との乖離)が多いと分析し、重点目標の具現化のため本校では次6つのスキルアップと1つの素地という7つの視点を挙げています。
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1 聞くスキル
2 話すスキル 確かな学力をつける
3 伝える・表現するスキル
4 自力で解決するスキル
5 英会話のスキル
6 ペルシャ語のスキル グローバル人としての素養を身につける。
7 国際理解・現地理解の素養
普段の授業からこの7視点の向上を目指した教育活動に取り組み、子どもたちが「日本とイランの架け橋」になるグローバル人になるようにしたい。この7つの視点それぞれには「なるほど、伝わった、こうしたい」があり、さらにそこに関心・意欲・態度が加わった問いを準備し、6月と12月にアンケートをとって変容を見ます。さらに、全教員が1ヶ月毎に究授業を行い(校長も授業をします。)7つの視点のどの視点かを取り入れ「なるほど、伝わった、こうしたい」というねらいが達成できたかについて研究授業を行います。
アンケート
【関心・意欲・態度の調査】
1 友だちの発表を聞くことが好きである。
2 友だちに自分の考え・意見を話すことが好きである。
3 文に書いたり、発表したりすることが好きである。
4 問題を自分で考え、解決することが好きである。
5 英語を使って会話することが好きである。
6 ペルシャ語を使って会話することが好きである。
7 イランのいろいろなところに行ったり、調べたりすることが好きである。
【なるほど!の調査】
11 友だちの意見・発表がよく分かる。
12 自分の考え・意見を発表するとき、どう話せば相手に伝わるかを知っている。
13 文に書いたり、発表するときに相手に分かってもらえるように工夫している。
14 問題文を読んで自力で解決できることが多い。
15 英語で話されても相手の言っていることが分かる。
16 ペルシャ語で話されても相手の言っていることが分かる。
17 イランのことについて調べたり聞いたりして「おもしろい!」と思う。
【伝わった!の調査】
18 友だちに意見を聞いて、自分の意見を言いたくなることが多い。
19 友だちに自分の意見を言うと、納得して(よく分かったと言って)もらえることが多い。
20 文やスピーチで相手に伝えることが得意である。
21 答えを書くときにきれいな字や文章を意識する。
22 英語で自分の意見や考えを伝えることができる。
23 ペルシャ語で自分の意見や考えを伝えることができる。
24 イランのことを家族や日本の友だちに伝えている。
【こうしたい!の調査】
25 どうすればもっと友だちの話していることが理解できるようになるかを考え、学習している。
26 どうすればもっと自分の意見に納得してもらえるようになるかを考え、学習している。
27 どうすればもっと文やスピーチで自分を表現できるか考え、学習している。
28 どうすればもっと早く正確に問題を解決することができるようになるかを考え、学習している。
29 どうすればもっと英語で話せるようになるかを考え、実践している。
30 どうすればもっとペルシャ語で話せるようになるかを考え、実践している。
31 どうすればもっと日本の人にイランのことを分かってもらえるかを考え、実践している。
本校では、3年前より英語イマージョン教育を取り入れ、小学部の図画工作、中学部の美術では現地採用教員を活用した完全英語での授業を取り入れています。3年経過した今、英語で授業を受けることに抵抗はなくなり、普通に英語で授業がおこなわれています。今年は、英語で授業する教科を増やし、日々の学校生活を英語で過ごせるよう、昨年から設定したイングリッシュデーの充実のため現地採用教員を3名に増やし強化を図っています。
また、テヘランには日本語補習授業校があり、毎週木曜日の午前中に授業を行っています。イランでは木曜日と金曜日が休日のため、木曜日に開かれていますが、テヘラン補習授業校は他の国の多くの補習校と違い、国際結婚された方の子女が日本語を学ぶ学校として7年前に開校し現在に至っています。教える先生は子ども達の母親や日本からの留学生などのため、日本人学校は、副教材の紹介、指導に支援などにあたっています。また、日本人学校の学校行事(運動会や学習発表会など)に招待するなどの交流もおこなっています。
最近、文部科学省より「在外教育施設グローバル人材育成強化戦略」についてのメールが送られてきました。目を通された方もおられると思いますが、日本人学校にも5月19日に配信されてきましたが、在外教育施設の役割の強化と充実がうたわれており、今後派遣を目指す先生方にとっては大変朗報なニュースと思います。本校では「在外教育施設グローバル人材育成強化戦略」の提言にあった「日本人学校と日本人会等とが連携して実施する場合、民間企業等が実施し日本人学校を施設として活用する」取り組みを日本人会と連携して実施できないか、学校運営委員会と話し合い進めています。
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