全海研が目指す方向性について

 

                               全海研・副会長  齊藤 仁

                                                     

                                                            

109号巻頭言(2019年6月15日発行)
1 全海研の役割について
 全海研は、国際理解教育や海外子女教育・外国人子女教育を通して次の人材を育てることを目標としています。
 (1)多文化共生社会の担い手の育成
 すべての子どもたちが、国内外で進目するグローバル化を正しく理解し、日本や地域の文化・伝統に誇りをもち、異なる文化を受容し、そうした文化をもつ人々と交流、協働できる資質能力を身に着けさせます。
 今世界では、自国中心主義(保護主義)やポピュリズムの台頭など、懸念される状況が増えています。人類は、20世紀の2つの大戦から、多国間協調主義を選択し、国籍や人種、ジェンダーなどによる差別や偏見をなくそうとしてきました、その大きな担い手であった欧米が、移民問題や貿易問題などによって、この平和への理想に逆行する潮流の中で喘いでいます。
 しかし、私たちは、グローバル化に伴って様々な困難が生まれたとしても、すべての国々の人々が平和に差別や偏見のない生活ができる社会を求め続けるべきと考えています。その礎となるのが国際理解教育であり、多文化共生の社会の担い手を持てることを重大な責務と考えています。

(2)グローバル人材の育成
 異文化の中で切磋琢磨され優れた国際人としての素養を持った国内外の子どもたちの資質能力をさらに伸長させていきます。
 多文化共生社会の中で、リーダーシップを発揮できる人材を育成する必要があります。競争とヒエラルキーで成長を促した社会は、対話と協働による社会へと変貌しつつあります。新たな時代にふさわしい人材育成は、国内はもとより、日本人学校や在外教育施設では喫緊の課題です。

2 組織としてのありかた
 □ ネットワーク組織として
  全海研は、トップダウンのヒエラルキー型の組織ではなく、教師と飢餓等をつなぐネットワーク型の組織
です。かつて文部省によって派遣された教師が、自らの在外経験をもとに国内の教仰こ寄与したい、海外での子どもたちの困難を少しでも支援したいという思いから生まれた組織であり、構成メンバーやその経歴は変わってもその精神は今も引き継がれています。世界各地、全国至るところへと足を運び、耳を傾け、知恵を寄せ合い、世界とつながる子どもたちの健やかな成長を願って、ボランティアで活動しています。

 □ 実践研究組織として
国内外における優れた実践を見出し、集積し、それらを国
に発信しています。また、ひとつの優れた実践から、一般的な理論や方法論を導きだすことで、多くの教室で新たな挑戦をうながし、研究を深めます。
 そのために、「教師の実践知」と「研究者による理論的な知」そして「行政による目標知」をよりよく融合させて、「新しい教師の知」を創生します。変化の激しい時代においては、様々な教育課題や新しい教育論が現場にもたらされますが、安易な受け売りや無批判な導入ではなく、「新しい教師の知」によってかみ砕く必要があると考えています。

 □  発信型の組織として
「多文化共生社会の担い手」や「グローバル人材」を育てる教育を国内外において推進していくために、全海研は、その研究成果を発思し、広く提案をしていきます。教師の実践的研究団体として、文部科学省、海外子女教育振興財団、大学、企業等に向けて、教室(実践現場)からの提案ができる組織という自負があります。

 近年の発信について
 全海研は、9つの地方ブロックとの協力連携のもとに毎年全国大会を開催しており、そこで全海研としての提案を行ってきました,2018年は千葉大会、2019年には北海道旭川大会が8日22日〜24日に開催され、継続して次の4つのテーマについて発信しています
 ぜひ、今年の北海道大会にも参加いただき、国際理
解教育を共に考え、実践していければと思います、
@ 教育のグローバル化への対応
  2003年のPISAショックに始まり、現在、文科省が全国て200校の導入を進めているI B(インタナショナル・バカロレア)など、教育評価に国際的な指標か導入されたり、さらには教育理念や内容・方法についても国際的な視点ての見直しが行われています。これを教育のグローバル化と呼びます。


  しかし、多国間に共通の指標や目標で、それぞれの国の教育を比較した時、自国の教育の弱みが見えると同時に、強みが明らかになります。教育のグローバル化が進めば進むほど、実はナショナルな文化的基盤に着目する必要かあると考えます。
  全海研では、在外教育施設の子どもたちがインターナショナル学校に進学したり、編入学したりした場合、I B(インターナショナル・バカロレア)は最も身近な教育プログラムとしてとらえています そして、小中学校レベルのIBであるPYPやMYPの教育理念や方法が、伝統的な日本の授業づくりとどのように融合てきるかを研究しています。毎日の教室の授業に、IBの視点や視座を取り入れることで、大きな質的な変化を期待しています

 A 国際理解教育のカりキュラムマネジメント
 素材の教材化フロジェケトでは、在外教育施設で経験したさまざまな事象を素材として、国際理解教育を進めるための教材づくりを進めています。この教材づくりは国際理解教育の最初の一歩です。ここから、学校独自、の国際理解教育のカリキュラムマネジメントが始まります。
 全海研は、国際理解教育を17の目標項目を、「知識」、
「思考力・判断力・表現力」、「学びに向かう力・人問性」、「グローバル意識」の4観点から設定しています。
 この4観点を網羅しなから、16の目標項目のどれを取り上げるかによって、学校独自、学級独自の国際理解教育の全体計画を創ることとなります。教材だけでなく、単元計画や指導計画を常に4観点から俯瞰しなから、国際理解教育を進めていってほしいと考えています

 B 在外教育施設派遣教員の体験のカリキュラム化
  在外教育施設に派遣された教員が、国内で活用されることは重要ですが、同時に教員自身が海外で身につけた資質能力を自分からいかに発揮するかという視点が重要です。
 そのためには、もう一度派遣教員は自分の中のどういった資質・能力が国内の教育に貢献できるかを再認識する必要があります。
  これまで多くの派遣教員は、海外で得た「知識・体験」の伝達にとらわれ、派遣教員を受け入れる学校や教育委員会も、その「知識・体験」だけに着目していないでしょうれ 異文化の生活で派遣教員が手にいれた財産とは、実は「ものの見方・考え方」の変化や「教育観や人間性」の変容だと考えます、これは、前述した国際理解教育の観点に当てはめるならば、「思考力・判断力・表現力等「学びに向かう力・人間性」での変容です。これまで、ぼんやりと「カルチャーショック」「リエントリーシヨック」「異文化対応能力」と呼ばれていたものを、子細に神分析して、それらをより具体的なかたちで子どもたちにどのように指導できるかを考えています。

 C 日本人学校のインターナショナル化
  在外教育施設、とりわけ日本人学校のアイテンテティについて全海研は考えています。
  海外で生活する児童生徒のうち、日本人学校に通っている割合は23%で、それ以外は現地校やインターナショナル校で学んでいます。今後もこの傾向は、欧州や北米では増加していくと考えられます。赴任の長期化や国際結婚などが、子どもたちに外国の教育を直接体験させたいという保護者が増えているからです、かつて日本人学校は、海外に住む日本人の子どもたちに国内と同等の学力を保証するために設立されました。しかし、グローバル化が進展する現代では、日本人学校もより積極的な国際化が求められています。
 全海研では、日本人学校は日本語による教育施設として、さらに日本文化の発信拠点としての役割を担うべきと考えています そのためには、欧米のインターナショナル校〔イギリス人学校・アメリカ人学校・ドイツ人学校等)のように、自国の言語・文化を現地国の子どもたちにも提供する施設へと進化する必要があります インターナショナル校では、自国籍を持つ児童生徒の割合は3割程度です。学校そのものが多文化化しているのです。これを、私たちは、日本人学校のインターナショナル化と呼んで、長期的な視点から研究し、提案します。