日本の教育にアジアの元気を上げたい

 

アジア教育友好協会・理事長   谷 川   洋

81号巻頭言(2006年7月3日発行)

<1.今の学校は、私の子供時代と何と違っていることでしょうか >
私たちが通った学校は、「木造」でした
木造の学校には得も言えない温かみがあったものです
廊下の黒光りする輝き、裸足で歩く床の感触、廊下の足音
子供達のあの喜びに満ちた歓声が、目をつむると聞こえてきます


今の学校は、まるで「閉ざされたセメントの箱」です
学校訪問の度に感じる冷たい門扉の拒絶感
昔は開かれた学校でした
学校の様子は、自然と町や村の人には見えていました
子供達の声が学校の周りにまで聞こえてきていました
今では町で遊ぶ子供達の声さえ聞こえてこないのです
せめて学校では、楽しく遊ぶ子供達を見たいものです

今の教師達もつらいのです、生徒たちと一緒にかごの鳥です
学校という閉鎖社会の中で親からまで管理されているのです
教える楽しさを味わっている先生はほんの一握りでしょうか
先生たちの心からの笑顔と誇りに満ちた顔を見たいものです


<2.アジアの山奥に教育の原点を見つけました>
村のあちこちから聞こえる子供達の遊び声、親たちの子を呼ぶ声村は生きています、村人たちは底抜けに明るいのです
親子が一緒に働く姿、学校が村の中心、熱血先生、学ぶ喜び
村に初めて出来た小学校に集まって来る子供達の笑顔と目の輝き物質的には貧しくとも、健気に助け合う素朴な心の広がり

日本の子供達よ、君たちにアジアの子供達の元気をあげよう
アジアの山奥で、元気に生きている友達を紹介してあげよう
彼等の向学心、師弟愛、生きる力、村の生活の知恵を受け取ってごらん
君たちがどんなに物質的には恵まれているのかを直接体で知るでしょう
知らないうちに忘れてきてしまった大切なことに気が付くことでしょう

アジアに友情の輪を広げて、自分の心の奥を覗いてごらん
友情や思いやりは相手の為に振りかける「魔法の香水」なのです
相手の為に振りかけるほど、自分にも振りかかってしまうのです
気が付くと、ほら、君たちにはアジアの友達が出来ているのです
10年後には、きっとどこかで出会うことになるでしょう

<3.では、教育現場を覗いて見ましょうか >(学校訪問記録から)
 ある中堅都市から、アジアの学校と交流できないか、話を聞きたいと言われて喜んで参上した。部長、課長10名近くが参加したが、自分たちには何の腹案もなく、ただ受身で聞いているのみ。積極的意見の出ない、結論も出さない会議となった。国際交流活動なのだから、若手も参加して、若い感性と新しい視点で挑戦す

るべきであろう。行政の率先垂範はまだ遠い話である。
 教育委員会を訪問すると、「校長会に諮ってみましょう」とよく言われる。これまで何回も同じ言葉を耳にしてきたが、具体的に学校紹介の声がかかったことはない。この言葉が出たときは拒否と受け取っている。
新しいことに挑戦する気持ちと時間的余裕は、今の教育現場にはない。夏休みも毎日学校に来ている・・何をそんなにすることがあるのだろうか、「子供たちのため」に斯くも多忙なら、教育現場の未来は明るいのだが。
 会社生活を40年やってきた私たちから見ると、歯がゆいことが多い。仕事の成果や時間に対する感覚がどうも違う。先生たちは親(利害関係者)と付き合うだけでなく、普通の大人、会社人間とも付き合ってみて欲しい。対等な関係の付き合いを広げて欲しい。教育現場を邪魔する愚かな親たちに振り回される必要はない、それこそ愚かなことだ。

<4.それでも教育現場には期待が持てるのです >
 ある学校での話:町全体を「エコミュージアム」(屋根のない自然博物館)と名付けて、環境活動をやっているリーダーに出会いました。彼の紹介で学校訪問しフレンドシップ交流の話をしました。現場の先生から、「これ以上忙しくなるのは困ります」と否定的な回答が出始めた時、彼が「私たちが具体的な仕事の手伝いをする、先生方に負担はかけない」と積極的な協力発言をしました。
 「子供達は地域の宝である」という信念に基き、子供達と共に町の川を浄化し、ホタルの保護運動をしている彼ならではの発言でした。その発言で、会議の雰囲気ががらりと変わりました。実務を手伝うという彼の申し出に、心から感動しました。
このような地域リーダーや親たちがいる町では、心の通った教育が育つと確信します。子供達と一緒に地域の人たちが、アジアを知ろうとしたり、手紙を書いたりする姿が今から目に浮かぶのです。
 もう一つ、ある学校での話:熱血校長は存在していました。タイの日本人学校の経験者です。その学校は、都下の農村地帯にあり、里山風景も多く残っています。しかし竹林が相当荒れています。校長はこの竹を利用して、子供達と一緒に竹炭を作っています。竹炭で近くの川の浄化活動に挑戦しています。竹炭をバザーで売った収益金を、タイの山奥の学校に寄付します。子供達は、複数の目的を達成できます。地域の親たちも、竹林整備に参加し始めています。
 竹の切り出しに夢中になっている子供達、弾んだ声を張り上げてバザーで竹炭を売っている子供達に、教育現場の未来の光明を感じるのです。

注:私たちはアジアの山岳少数民族のために小学校を建設し、日本の学校とのフレンドシップ交流を推進しています。2005年8校建設、2006年14校を予定しています。